1-69 警戒
完璧なタイミング、有効な間合い····· そして、ガナードの顎を『すり抜ける』ダリルの右肘ッッ!!!!
まるでデシャヴを見たかのようにダリルは驚愕し、過去の苦い苦戦を思い出す。
そしてガナード程の猛者は、その意識の揺らぎを決して見逃さないッッッッ!!!
「ッッ馬鹿なっ!!!」
ダリルの右肩を貫く異常に発熱した剣。血液をも沸騰させる温度に流石のダリルも激痛で表情を歪ませ、地面を強く繰り上げ剣を引き抜きながら後ろへと大きく後退する。
『ダリル選手の猛攻一歩届かずッッ!! 逆に反撃され堪らず距離をとるッッ!!!』
「いいぞぉー ガナードぉ!!」
「逃げるんじゃねぇ腰抜け野郎ォ!!!」
「さっさと焼き殺されちまえッッ!!!」
ガナードのカウンターが決まったことでボルテージとダリルへのヤジが高まる会場、そして傷口からはまさに焼けるような激痛····
だが、ダリルの精神的打撃が一番大きかったのは──
(間違いない俺の攻撃が『すり抜けた』ッッ!! 奴もロベリアと同じで幻術魔法も使えるというのか!?)
否、ガナードが使ったのは第三の炎技『陽炎』である。この技は蜃気楼のような自身の分身を発生させる技であり決して幻術魔法ではない。
しかも、幻術とは違い本体が認識出来るため種さえ分かれば遥かに破られ易い技でもある。
しかし、熟練したガナードが使い手であれば話は違う。現にガナードは攻撃が当たる極限まで引き付けて発動させたことにより、ダリルに対して勘づかれることなくカウンターに成功している。
それに加えロベリアの幻術魔法とダブらせるような現象によってダリルは『警戒』し反撃せず思わず距離をとってしまう。
そしてダリルの『警戒』は『躊躇』を生み出し、期せずしてガナードは最大の危機を脱しただけではなく勝機を見出だすことが出来たのである。
(·····距離を取った理由はわからんがもう貴様の間合いには入らせんぞ、ダリルよ·····!)
ガナードは上段の構えをとると絶叫しながら剣を振り下ろすッッ!!
「第二の炎技!! 『竜炎』ッッ!!!」
剣から放たれる竜の形をした炎の固まりがまるで生き物の如くうねりながらダリルへと迫るッッ!!
『遂に出たぁぁぁ!!! アルザーヌ国境事変において一振りでオストライン兵一千人を焼き殺したと言われる火魔法、竜炎だぁぁ!!!』
興奮を駆り立てる実況と、派手な技によって沸き立つ観客達。だが当のダリルは、
(速度は大したことがないが食らったら流石にまずそうだな·····)
至って冷静である。超近接のハイスピード戦を主とするダリルにとっては遠距離魔法の愚鈍な攻撃など今となっては当たるのが難しいほど。
ダリルはこれを軽く避けると、ガナードとの距離を詰めるべく全速で駆け出す。
一方のガナードは再び上段の構えをとり叫ぶ、
「『竜炎』ッッ!!」
「無駄だ! そんなノロマな攻撃俺には当たら──ッッ!!!」
ダリルは気が付く、背後を舐め回すような殺気を、否、背中を焼き尽くすようの熱気をッッ!!!!!
「!? 馬鹿な追尾魔法だとッッ!!!」
後ろに視線を移すとそこには猛追してくる燃え滾る飛竜、『竜炎』が直ぐそこまで迫っていたッッ!!
元魔法使いであるダリルだからこそ、この凄技に驚愕する。本来遠距離魔法のスピード、威力、射程距離の三点は全て反比例の関係であり、一点を強化すれば他の二点の性能が弱体化する。しかも、追尾や持続性などの機能を追加すれば追加するほど上記の三点は著しく劣化するのだ。だが、
(速度は大したことがないだと!? 阿呆か俺はッッ!! 桁外れの追尾と持続性を持っていながらこのスピード、化け物かコイツはッッ!!!)
己の浅い分析を貶すダリル。しかし、正面のガナードから待ったなしと云わんばかりに二発目の竜炎を放つッッ!!
前からは竜炎、後ろからも竜炎!!! 二つの追尾魔法に挟まれた男はガナードとの距離を詰めるのを一時諦め、回避に専念する。
(大した技だが魔法である以上時間と共に減退しいずれは消滅する筈だ····!)
ダリルが狙うのは時間切れ、命を掛けた鬼ごっこであるッ!
しかし、ダリルを嘲笑うかのように二匹の炎竜は奇妙な軌道を描き始める。
『おっとぉぉ!! ガナード選手の放った二匹の炎竜がまるでウロボロスの輪の如くお互いに尾を追いかけながらダリル選手を囲ったぁぁぁ!!!』
二匹の炎竜は直接ダリルに向かわずに輪の形となって男を閉じ込めた。戸惑うのもほんの数瞬、恐るべき次の一手を予想したダリルは跳躍して脱出しようとしたが、
「!? 馬鹿なッッ! 撃てるのか三発目をッッッッ!!」
顔を上げたダリルサが見たのは、上空高く飛翔し三度上段の構えをとるガナード、そして─
「『竜炎』ッッッッ!!」
全てを焼き払うべく、上空より一際巨大な竜炎がダリルの頭上へと舞い降りるッッ!!!──
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