1-60 思惑
「弱者!? この俺が弱者だとッッ!?」
ドレファスは14歳で騎士の世界へ入り、16歳にはストレリチアに次ぐ異例の早さで特級騎士へ昇格した。
そんな彼を誰もが称賛し、天賦の才の持ち主だと持て囃した。そして彼も周りの評価に自信を持ち始め、いずれはガナードやストレリチアを越える存在に至ることを確信していた──
それ故に許せなかったッッ!!
己の強さを否定する、この男にッッ!!
己を弱者と評した、この男にッッ!!
そしてドレファスは完全にキレたッッッッ!!
「ふざけるんじねぇぇぇ!! まだ終わっちゃいねえ!! 『全刃形態』──」
闘争を辞めようとしないドレファスは魔法を唱えるが──
「止めんかドレファスッッッッッッ!!」
ガナードの怒声が男を躊躇させた。
「ガ、ガナードさん···· しかし──」
「しかし何だ? お前は今の立ち会いで敗北したのだ、それ以上でもそれ以下でもない。現実を受け止めろッッ!!」
「クッ!?」
ドレファスは苦虫を潰したような表情をするが、引き下がる他なかった。
ガナードはダリルの方を向くと片手を差し出す。その目付きにはダリルに対する侮りなど完全に消え去っていた。
「見事であったぞ今の立ち会いは。3日後は共に良い試合をしよう·····」
「·····ああ」
二人は固く握手する。だが、それは友好の証などではないのは誰が見ても明らかである。
結局、ガナードが帰ると取り巻き達やドレファスも渋々と引き下がり大きな衝突には至らなか
った。
「·····一つ聞いていいかストレリチア。何故、御前試合とやらが『3日後』と決まっていた····? お前も俺を利用するつもりなのか?」
ダリルはストレリチアに疑いの目を向けて問い掛ける。
「言うなダリル。この前の稽古料だと思ってくれ····· それにお前にとっても悪い話ではないだろ?」
「後から請求されるのんて聞いていないぞ····· だがいいのか? 俺が勝ってしまったらグランオルドルの面目が丸潰れになるぞ?」
「フ、いいさ。それくらいしないとあいつらの跳ねっ返りは治らんからな。しかし、もう勝った気でいるのかダリル? あのガナードという男は強いぞ、少なかれ今のお前よりはな」
───瞬殺劇から一時間後、治癒室にて
「くそがッッ!!」
治療を終えたドレファスは取り巻き達の制止を無視して大いに暴れていた。それは大衆の面前で恥をかかされたからだけではない。
(あの野郎ぉぉ····! その気になれば膝も顔面もスイカみたいに完全に破壊出来た筈なのに、手心を加えやがった····!)
ドレファスの怪我は膝及び鼻も骨にヒビが入り、軽い脳震盪のみの軽症でグランオルドルお抱えの治癒術師によって既に治療済みであったが、手加減された事実で男のプライドはズタズタにされていた。
「うわぁ~ ドレファスが無名の奴にぼこぼこにされたって聞いたけど本当みたいねぇ~ まじウケるんですけどぉ~」
いつの間にか治療室のドアにもたれ掛かりながらドレファスに挑発的な言葉を投げ掛ける、やたら胸を強調している鎧を纏う褐色の美女。
彼女の名は『コルチカム』、グランオルドルの特級騎士でありドレファスとガナードと同じ五星侠の一人である。
独特な魔法由来の無差別的な闘い方から、『全身凶器』、『グランオルドルで最も危険な女』と渾名されている。
「何の用だ? 淫乱女が····!」
「ちょっとひどぉ~い。普通、女の子に向かってそんなこと言える?」
「今はお前と会話するだけでイラつくんだよ!! さっさと用件を言え!!」
「····あっそ、ただの伝言よ。『御前試合までドレファスからのダリルとの接触を禁じる』、てガナードさんからね」
「····わかったと伝えてくれ」
「あら素直で可愛い~」
「用が済んだらさっさと帰れ!」
「ハイハイ、負け犬根性が移っちゃうから怒鳴らくても帰りますよ~だ」
背を向けて帰ろうとするコルチカム、だが彼女は最後に一言呟いた。
「あ、ちなみに今ので私の『魔法』掛けといたから。アンタなら説明しなくても判るでしょ? 約束を破ったらどんな『ペナルティー』があるかね···· じゃあね~」
今度こそ帰ったコルチカム、だがドレファスは忠告されても諦めるつもりなどなかった。
ドレファスは取り巻き達に命令する。
「·····おいお前ら、今日中にダリルの交友関係を調べてこい!」
「で、でもガナードさんが近寄るなって。それにコルチカムさんの魔法も·····」
ドレファスはニヤリと笑う。
「ちゃんと話を聞いてなかったのか? あいつが言っているのは俺がダリルに近寄った場合だけだ。つまり、ダリルが俺のところに来るように仕向ければ問題ない····!」───
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