1-55 戦法

───次の日、グランオルドル修練場



昨日に引き続きダリルはクロムウェルとビスマルクとのスパーリングに挑んでいたが····


(やはりそうだッッ! この『方法』なら二人の攻撃を凌げるッッ!!)


クロムウェルのボディーブローがダリルの腹部を直撃『したように』見えたが、間髪入れずに飛んできたダリルの正拳突きが胸の中央、壇中を貫きその痛みでグラつく。


明らかに自由に攻撃できる筈のクロムウェルは不自由を強いられていたダリル相手に苦戦していた!



───昨日の夜



ダリルは一人、人気のない廃墟でシャドーの組手をしていた。


ただの廃墟ではない、ここは3日前ロベリアとの死闘を繰り広げた場所であり勿論シャドーの相手も彼女だった。


過去の記憶を元に十分程度の組手をしたあとダリルは呟く·····


「やはりそうだ····· ロベリアに俺の攻撃をほとんど『届いていない』····」


避けられている訳ではない、攻撃は当たっている·····


だが、打撃に手応えがないッッ!! それ故に相手のカウンターを許し、攻めているはずの自分が窮地に追い込まれるッッ


この正体不明の感覚に男は戸惑うが直ぐに答えを見つけた──




───現在へ戻る



男が見つけた答えそれは····


(簡単な話だ····· 不可避の打撃が迫っているのなら、直撃を避けるよう打点をズラして安全に受ければいい!! そして──)


クロムウェルは重心落とし左の回し蹴りを仕掛けようとするが、それに対しダリルはサイドに回りをこれを阻止ッッ!!


そして右鉤突きがクロムウェルの左脇腹を直撃し、苦痛の吐息を漏らすッッ!!


(そうだ相棒、それが正解だ!! 足元が制限されて後退して避けることは出来ない、勿論身体強化魔法を使っている相手の打撃を防御することも出来ない·····ならば相手の技の間合いを潰して攻撃を出させなければいい!!)


小さく右拳をガッツポーズのように握るプルムの隣に、いつの間にか無気力か表情の女性が一人······


「ほう、『災厄の子』は魔術研究家と聞いていたが戦闘の指導も出来るとはな」


「!? うおぉあ! ストレリチア!? いつの間に!?」


「そんなに驚くな、ついさっきだよ。それにしても、お前と私が同じ見解になるとはな·····」

  

「·····剣聖サマも気が付いていたのかい、相棒の『弱点』に」


「私は別にそれが弱点とは思わんがな。だがゾルトラ相手にはすこぶる相性が悪いのは確かだな」


「あのぉ、お二人で盛り上がっているところ申し訳ないですがダリルさんの『弱点』て何なんですか?」


ストレリチアから恐る恐る出てくる影···· それはベロニカだったッッ!!


「久しぶりだなベロニカ! てかお前ダリルと一番長く旅しているのにそんなのもわかんねぇのかよ!」


「うっさいですねプルム! 私はストレリチア先輩に聞いてるんですよ!」


「いや、プルムの言う通りだぞベロニカ。お前も見習いとはいえ騎士の端くれ、それぐらいの観察眼は持たねばならんぞ」


「うぅぅ·····」


予想外にもストレリチアに諌められ落ち込むベロニカ。ストレリチアは見かねてベロニカの頭をポンポンと叩き、優しく語りかける。


「そんなに落ち込むなベロニカ。そうだなぁ、お前は今まで見てきたダリルの闘い方をどう思う」


その質問でベロニカは思い巡らす、ココネオ村のゾルトラを、アルザーヌでのエルヒガンテを····


「真っ向勝負てか、殴り合いてな感じですかねぇ?」


自信無さげにベロニカは答えるが、ストレリチアは小さく頷く。


「それでほとんど正解だ」


「え、そうなんですか!?」


「さらに言えばダリルの闘いの基礎はまさに『肉を切らせて骨を断つ』。相手の攻撃を甘受しつつもそれ以上の一撃を与えて制するのが基本戦法なんだよ」


「? それがどうしてダリルさんの弱点になるんですか」


「だから私は言っているだろ、弱点だとは思わないと。寧ろダリルの超人的な肉体と最も適している故にシンプルかつ攻略は難しい。格下の相手は勿論、格上の相手にも対応できるオールラウンドな戦法だと思っている」


「えぇ···· じゃあ何でそれじゃあ駄目なんですかぁ」


頭を抱えて考えるベロニカ、プルムがやれやれといわんばかりな表情で語り始める。


「オレが答えてやるよベロニカ。簡単な話さ、もし相手の方が身体能力も身体強化魔法の強度が高く、同じ戦法を使っているのならどっちが勝つと思う?」


ベロニカは「あっ」と小さく呟き、ストレリチアの方を見る。


「わかったようだなベロニカ。確かにオールラウンドな戦法ではあるがゾルトラ相手には不味いんだよ。遥かに身体能力が上の格上で同じ戦法を使うゾルトラ相手だとな」──


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