第120話 魔力暴走!? 黒太子の猛攻

 膨れ上がった魔力。


 それが体内から排出される瘴気が甲冑の隙間から漏れ、立ち上る。


 ビリビリと放電したような赤い魔力が体の周りを走っている。


 「もう手加減ができない。 私の中にいる邪悪な獣が――――貴様を凌辱する!」


 暴走。


 その動き、もう人間じゃない。 まるで一本の弓のように真っすぐノアへ突進していく。


 しかし、その動き、ノアには――――


「なっ! 消えた!?」


 眼球では捉えきれる事はできなかった。


 防御――――反射的に防御を固めるノアだったが、


「ぐっ――――がぁ!」


 一撃で体を浮遊感が包み、痛みが遅れてやってくる。


 それでも、なんとか地面に着地するも、そのまま崩れ落ちるノア。

 

(痛痛痛……ッ。きっと車と衝突したら、こんな感じなんだろう。 まずい! 起き上がれない)


 二撃目


 倒れていたノアに黒太子が体当たりのように膝を叩きこむ。


 本日、二度目の衝突。 ゴロゴロと地面を転がり、なす術もない。


 倒れたまま天を仰ぐノア。その視線の先―――― 空には黒い影。


 踏みつけストンピングではなく、踏みつけフットスタンプ


 食らえば――――死!


 辛うじて体を動かし、なんとか回避する。


 その威力は、黒太子の両足が接触した地面に亀裂が走り、砕けた岩の一部が舞い上がる。


 戦いの序盤、ノアが踏みつけ攻撃の意趣返しだろうか。


 お返しとばかりに黒太子は振り上げた踵をノアに狙い、落としていく。


 それもノアのそれとは、威力が違う。

 

(――――ッ!? ひぇ~! 当たれば死ぬ!)

 

 なんとか地面を転がり回避。 避ける、避ける、避ける……


 だが、避けきれない。 ついには――――


 「がぁ!」と吐血するほど衝撃。


 鍛え抜かれたノアの腹筋ですら無意味だろう。 筋肉の防御壁を貫く一撃。


 全身を襲うダメージを無視して、立ち上がり逃走を計る。 だが、ダメだ。


 すぐに捕まり、後頭部を掴まれ――――


 そのまま地面に叩きつけられる。


 黒太子は猛る、猛り狂っている。 もう敵であるノアすら眼中にないかもしれない。


 地面に拳を叩きつけ、 地面を蹴りつける。


 なんとなく―――― ノアは――――


 (嗚呼、苦しんでいる。 ごめんなさい……私が弱いから苦しめている。 私が、俺が……もう少し、強ければ……うん、大丈夫。もう少しだけ……)


 「ごめん、待たせたね。 もう少し、もう少しだけ戦えそうなんだ。もう少しで何か……」


 もはや、言葉が通じぬほどに暴れ狂う黒太子の動きが止まる。


 ノアを確認するように眺め――――そして、彼女への攻撃を再開する。


 肉眼には捉えられないほどの神速の体当たり。


 だが――――


 次の瞬間、黒太子は宙を舞う。 そして、腹部に強い衝撃を感じていた。


 ノアと接触する直前、何かが起きた。

 

 それを理解するよりも早く、黒太子は体当たりを開始する。


 やはり、接触する直前――――黒太子の体は宙を舞った。


 同じ現象。 


 黒太子にも理解する。自身は投げ技を受けているという事実。


 しかし、何をされているのか? それが理解できない。


 だから、次は全力で行かない。 むしろ緩やかな動き。


 緩急をつけた攻撃――――ではない。


 本当に動作を1つ1つ確認するように、ゆっくりとノアに近づいて。


 ――――やはり投げられた。


 接触した瞬間、脱力したノアの肉体が黒太子を包み込むように抱き、力に逆らわず背後に倒れていく。


 俵返しパンケーキ ――――柔道やレスリングで使われる返し技。


 しかし、その途中で技に変化が起きる。 


 それは――――震脚。  高速の攻防の中で行わる。


 脱力から震脚の繋ぎ。 それに無理やりといった不自然さもなく――――


 地面から伝わる反発力はノアの腕に集中して――――密着した黒太子の腹部へ叩き込まれた。 


 投げへの動作からの震脚を加えた攻撃。


 それも後方に倒れゆく不自然な状態からの震脚。


 神技とも言える技。 3人の達人から手ほどきを受けた技が重なり合い。


 それは1つの名もなき技をして完成を迎えた。


 その技を理解したのか? 黒太子。 さすがに4度目の突進はない。


 普通に歩き、間合いを詰めて――――拳を振るう。


 対してノアも拳で迎え撃つ。 


「あはっ、結局は殴り合いか、いいよ。でもね――――」


 拳の撃ち合い――――それはノアの領分。


 ドドドドドドドドド……と重機の作業音によく似た打撃音。


 その轟音は高速の1撃、1撃に地面を蹴る震脚によるもの。


 やはり、このまま勝つのはノア――――いや、黒太子もこのままでは終わらない。


 ノアとの激しい攻防。その中でノアの胸に一撃を打ち込む。


 冲捶―――― それも震脚からの――――


 小柄なノアは体が浮き上がり、後方に弾かれる。


 (コイツ、ここに来て打撃が進化してきている―――面白い!)


 すぐさま、両者は間合いを詰めて、打ち合いを再開した。


 (殴られたら、当然痛い。

 

  殴れば、蹴れば……肺が、心臓が破れるくらいに苦しい。 ダメージを受けた部分が熱を持ち、体温を上昇させる。 


 明らかに異常事態だ。 体が悲鳴を上げている。 でも――――


 それが、どうしようもなく楽しんだ。 お前は? お前はどうだ?)


 ノアは一撃、一撃、問いかけるように拳を振るう。 まるで、それができる唯一のコミュニケーションのように感情を乗せた攻撃。


 黒太子は? ――――彼は、はたして何を思う?


 

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