魔剣研究部と生徒会の秘密編

第80話  虚構と事実

 男性寮の様子。


 新学期3日目、生徒たちは寮で用意された朝食を楽しみ、制服に着替えて登校へ――――しかし、寮の玄関口には大柄な先生が仁王立ち。


 先生の口から臨時休校が伝えられた。


 それだけならわかる。あり得る話だ。 しかし、奇妙な事に先生は、玄関前に集まる生徒たちへこう発言したのだ。


「今日、1日は寮からの外出は許可されない」


一体、何があったのか? 混乱の中、広がりと見せる虚構デマと事実。


「生徒たちの何人かが昨日の夜から見当たらない。そいつら、何かやらかしたのでは?」


「今、窓から外を見れば、黒い馬車が何台も停まっている。周囲には憲兵や教会関係者らしき人間が見える」


「憲兵? 教会? それって新入生のノア・バッドリッチとルナ・カーディナルレッドの関係者じゃないのか?」


「それだ! 今、2人はどうしてる?」


「ばか、女子寮の事なんてわかるわけないだろ」


「いや、彼女持ちの連中なら、連絡できるだろ。女子寮の様子を……」


「今、この場で彼女持ちの奴は挙手」


「……」


「……」


「……」


「……はい」


「はい、お前は断罪ギルティ。処刑法は我々、『恋人持ちは罰せずの会』にまかせよ」


「なんだ、その名前とは裏腹な殺伐とした連中は! やめろ! 俺に、俺に近づくなぁぁぁ!」


  

・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


園長室。 魔法学園の最高権力者である白い髭の老人。


最高権力者のはずが、その額には大きな汗が見えていた。


彼の前には2人の女子生徒が座っている。 


1人はノア・バッドリッチ。


1人はルナ・カーディナルレッド。


その背後には保護者が付いている。


つまり、この国の軍部最高責任者 バッドリッチ将軍。


つまり、この国の宗教的精神的指導者。 枢機卿カーディナルレッド。


この両者を正面に迎えて平然とできるのは、この国の王だけであろう。


「話は聞きました」とノアの父親は口を開いた。


「なんでも学園の地下にある迷宮。そこを発見した我が娘が探検した所、そこを本拠地にする悪魔教が儀式を行っていた……とか」


チラリと隣に立つ。枢機卿を見る。


言外に、「悪魔教撲滅はお前の役割、それを娘の入学する学園に根付いていた事に気づかなかったのか?」と抗議の視線であり、学園長など眼中になったか。


「ふん、当然気づいていたさ。そのために内偵を進めていた。昨日は、貴様の娘が儀式に乱入したと聞いて予定が狂ったわ」


「なに? ならば、貴様は知っていたのか。なるほど、そうか。……自分の娘に手柄を立てさせるために今まで放置させておいたという事だな」


「邪推は止めてもらいたいものだな。 事態は貴様が考えているよりも根深いのだ。私の権力を持ってしても立ち入れれぬ領域にまで悪魔教というのは隠れている」


「む!? それはつまり――――」


 喧嘩腰の両者の会話だが、その内容は国家機密。


 もう学園長は耳を塞いで震えているレベルだ。


 だから――――


「パパ!」とノア。


「むっ!」


「お父様!」とルナ。


「お、おぉ」


 2人の娘が窘めるために強い口調になるまで終わらなかった。


「そ、それでは、事件の調査として教会側と軍部の学園への介入を認めます」


 自治権が認められている学園に2つ国家権力が入る事すら前代未聞なのだが……もはや、学園長は疲れ果てていたのと……学園の能力だけで、今回の事件を収める事は不可能だとわかっていたのだろう。


   

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