第38話 決着 ウィリアム・マーシャル戦
絶招 『猛虎硬爬山』
魔力に敏感で世界の理を知るエルフのノバスは、のちに評している。
「まるで呪怨の塊。この世の業を……いったいどれだけ、あの技で死んだ者がいるのだろうか? そう表現しても大げさではない魔手ですよ……あれは」
ならば、今―――― 目前にしているウィリアムの目には何が映っているのか?
答えは――――無である。
「おぉ、何も見えぬ。ノア、お前の姿がわからない」
比喩的な表現ではなく目前にいるはずのノアの姿を捉えれなくなっていた。
人間の脳は、理解できないものに遭遇した時、目から得た情報を遮断する。
例えば、江戸時代。 黒船来航を見物しようと浦賀に集まった者たちの多くが黒船を認識できなかったそうだ。
他にも大航海時代。 世界一周に挑戦したマゼランの船団。補給のため陸地に近づいた所、現地の人たちは船団を認識できずに突然、マゼランたちが出現したのに驚いた……なんてエピソードもある。
だが――――
「だが、それがどうした!」
ウィリアムが迎え撃つのは、伽藍洞と化した空間に存在しているであろう好敵手。
彼は腕を伸ばす。 手刀、空手では貫手と言われる形。
元々、彼はトーナメントの語源となった馬上競技の選手。
互いに馬を高速で走らせ、槍で強烈な突きを放ちあう競技。
ウィリアムの肉体は、それを表現――――いや、再現する。
丸太を見間違うほどに太い両足は、馬だ。
そして、腕は槍――――
言ってしまえば、相手に向かって走り込み、腕を突く出すだけ。
問題は、それが必殺技になり得る威力だという事だ。
「うおぉぉ!?」とウィリアムは裂帛の気合を吠えた。
「勝機は十分すぎる。 あの技、猛虎硬爬山とやらは突進技に合わせられまい」
肉眼に写らぬはずのノアから動揺が伝わる。 ……ウィリアムの想像ではあるが。
だが、正しい。
牽制の一撃で相手との間合いを作り、完全なる震脚から繰り出す打撃。
それが『猛虎硬爬山』だ。
(俺の突進してくる巨体を牽制で後退させられるか? 震脚を放てる間合い作れるか? 無理だろ!)
「行くぞ、ノア・バットリッチ! 猛虎硬爬山……破れたりだ!」
瞬時に距離を0へ変換させる脚力。 本物の槍の如く、防具を貫く貫通力。
「今、それらを持って――――
いるはずの空間にその必殺を確かに――――打ち込んだ。
―――だが、
『猛虎硬爬山』
ウィリアムの巨体が宙を舞う。
「見事! 技を繰り出すに必要な条件が揃わぬはずにも関わらず――――」
再び、ウィリアムの両目にノアの姿は浮かび上がってくる。
「できるならば、永遠にその姿を見ておきたい。ノア・バットリッチ……そなたは美しい」
ウィリアムは地面と接触し、意識を失った。
トーナメントの絶対王者 ウィリアム・マーシャル
このたび、異世界において栄光たる戦歴が更新された。
501戦500勝1敗
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