第31話 運命の出会い

 この世界には運命フェイトというものが存在している。


 例えるならば、作家が物語に望むような劇的な出会い――――あるいは真逆。脈略もなく唐突な出会い。


 それが異性同士の甘く溶け合うチョコレートようなラブロマンスもありえれば――――


 一度、会えば二度目は血で血を洗う殺し合いを宿命づけられた呪いのような出会い。


 それは、ちっぽけな人間では、到底あらがいきれない巨大な渦のようなものである。


 その日、ノアは自らの運命と出会った。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 疲労。 特に戦いの疲労は蓄積されていく。


 まるで皮膚の中で熱湯が流れ回っているように打たれた場所が熱を帯び出ている。  


 関節、体の可動域が錆びついているように動きが鈍い。


 幸いにも、この世界は回復魔法の存在によって戦いの翌日には、その程度で済んでいる。


 死ななければ再起可能。


 目を潰され、骨を折られ、あらゆる靭帯を破壊され、急所を潰されても翌日には元通り。


 逆に言えば、それほどまでに回復魔法が発達するほど魔物や戦争など、死に近しい世界というわけだ。


 最も脳へのダメージ。 いまだに人体の黒箱ブラックボックスと言われる脳へのダメージは容易に回復できるものではないらしいが……


 おかげで激闘の翌日にノアはベットから起き上がり

 

 「祝、初勝利&完全回復!」と誰に聞かせるわけでもなく、ガッツポーズをとっていた。


 そして、ノアは滞在している宿を抜け出した。


 それは、夜通しで回復魔法をかけてくれ、自分以上に疲労しているであろうメイドリーに気を使っての事だ。


 最も、メイドリーが目を覚まして自分がいない事がわかれば、雷が落ちるだろうが……


 それでも、ここは巨大な地下闘技場を中心にした町――――世界でも有数の娯楽街だ。


 戦う事も目的にやってきたノアは、試合が始まるまで極度の緊張。 強く張られた糸がいつ切れてもおかしくないような精神状態だった。


 甘い勝利を手にした今日ぐらい1人で楽しんでも罰は当たらない……とノアは考えた。(もちろん、目を覚ましたメイドリーが心配しないように置き手紙を残しておいた)


 ノアは、都会から離れた田舎で父親の領土に住む箱入り娘である。


 もちろん、師である李書文と共に数々の冒険をこなしてきた経験値はあるものの……


「都会すげぇ!」


 石畳みの床。 早朝でありながら早足で動き回る人たち。


 もう、オシャレな店は開き、お客に朝食が振る舞われている。

 

「おぉ! サンドイッチに……この匂いは! コーヒーか!」


 かつて、前世はカフェイン中毒だったノアは鼻をひくつかせた。


「サンドイッチならともかく、まさか、この世界にもコーヒーがあるなんて!」


 ノアは財布を取り出し……


「ない! 部屋に忘れた!」


 がっくりと頭を下げるノア。


「今から取り帰るとメイドリーに見つかりそうだかななぁ……でも、流石に財布がないと1人に気ままに遊ぶに遊べないか……」


 力なく呟いていると、スカートが摘ままれた。


 「ん? なんだ?」と振り向くと少女が1人。


 「えっと? 君は……」


 「ママ?」


 「え?」


 「ママ……じゃない!」と少女は泣き始めた。


 「あの? え? どなたか! ご両親はおられませんか!」


 ノアが大きな声で周囲に呼びかける。 すると大きな声に合わせて少女の泣き声も大きく……


 そんな時、救いの手が現れた。


 「あの……もしかして迷子ですか?」と男性の声。


 「はい!」とノアは助かったと思いながら、その男性の顔を見た瞬間に凍り付いた。


 その顔は見覚えのある顔――――どころではない。


 かつて、前世で見た顔。 毎日……鏡の中で――――


 その人物の顔は、ノアの前世の顔と瓜二つだったのだ。


 

  

 

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