第十二話 魔法使い
ガウェインによって呼び出された魔法使いは、アンリエットを、と言うか、アンリエットに掛けられている術式を懐かしそうに見つめて言った。
「おお。懐かしい。若い頃の俺が施した傑作だ!!」
そう言って、繁々とアンリエットに施された術式を見つめていたが、ガウェインにはアンリエットをいやらしい目つきで見ているようにしか見えなかった。
思わず、部下の魔法使いに殺意の籠もった視線を向けると、一瞬体を震わせた魔法使いは、全身に汗をかいて言い訳をしていた。
「ちっ、違います!!俺は、術式を見ていただけです!!無実です!!」
慌てふためく部下を無視したガウェインは、術式について尋問するかのようなキツイ口調で聞いていた。
「おい、その術式は一体なんなんだ?正直に吐け」
一瞬口ごもった魔法使いは、喉を鳴らしてから覚悟を決めた表情で言ったのだ。
「この術式は、発信元から受信元に脂肪を送るための術式です……」
「は?」
「ですから、あちらにいるご令嬢の脂肪を、こちらにいるご令嬢に転送―――」
その言葉を聞いたガウェインは、一層強い視線で部下の魔法使いを睨み付けていた。
睨み付けられていた魔法使いは、ガクガクと震えながらもガウェインが最も気にしていたことを言った。
「命を……脅かすような類いではありません……」
術式による命の危険はないと知ったガウェインは、安堵の息を吐いていた。
そして、一瞬で射殺さんばかりの表情に戻って、魔法使いに言ってのけたのだ。
「分かった。過去に仕出かしたことを
その言葉を聞いた魔法使いは、顔中を涙と鼻水で汚しながらも感謝の言葉を口にした。
その後、鬼のように割り振られた、大量の仕事が回ってくることも知らずに。
「将軍……。ありがとうございます!!」
「ただし、今すぐこの不愉快な術式を解除しろ。いいな?」
冷酷将軍の名は伊達ではないと言わんばかりの、暗く刺すように冷たい、鋭い刃物のような視線に、魔法使いは声を出すことも出来ずに、治まったと思った涙と鼻水を洪水のように流しながら必死に頷いていた。
術式の解除は、実にあっさりと成された。
魔法使いが、術式を解除するための呪文を唱える間、ガウェインの部下にその身を押さえつけられて身動きが出来ないでいたジェシカは、ずっと叫んでいた。
「やめて!!いやーー!!そんな恐ろしいことやめて!!やめなさい!!許さない!!」
そんな叫びも無視して、魔法使いは淡々と呪文を唱え続けていた。
そして、魔法使いが、長い呪文を唱え終えた後に、アンリエットとジェシカの間の空間を切るように杖を動かしたのだ。
シンと静まり返ったその場所には、絹を裂くような音が鳴り響いていた。
ビリビリビリ!!!
そう、実際に絹のドレスが裂ける音が鳴り響いていたのだ。
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