第四話 英雄とその副官
ガウェインは、最高潮に飽きていた。
国王への義理も果たしたとばかりに、会場を後にしようと考えたが、群がるか弱そうな令嬢たちを前に、身動きが出来ないでいた。
下手に動いたために、令嬢が怪我でもした日には、鬼の首を摂ったとでも言わんばかりのその親に、責任を取れと言われ、無理やり結婚せさられる未来しか見えなかったのだ。
ガウェインに集まる令嬢達は、触れれば壊れてしまいそうな、そんな脆さがあり、別の意味で怖かった。
その他にも、積極的に身を寄せてくる令嬢たちも中にはいて、その秘められた獲物を狙うような獰猛な気配に、困惑していたのもあった。
(なんだ……。こんなにか弱そうだと言うのに、歴戦の猛者のような内に秘める闘志は……。気を緩めれば、俺が狩られるということなのか?!)
そんな事を考えていると、実の弟であり、ガウェインの副官を務めるエゼク・トードリアが助け舟を出しに来てくれた。
エゼクは、先の戦争で顔に大きな怪我を負っていた。
本人はその怪我を名誉の負傷だと言って気にしていなかったが、国に戻った時に、エゼクの怪我を見た貴族連中が卒倒したため、周囲に気を使い今では、仮面でその顔を隠していた。
「兄上、そろそろお時間かと」
そう言って、ガウェインに群がる令嬢とその両親達を引き剥がそうと間に入ったが、たちの悪い者たちが、エゼクをガウェインから離そうと無理やり体を押しやったのだ。
大勢の貴族に体を押されたエゼクは、よろめき片膝を付いていた。
その時だった。
運悪く、一人の令嬢の持っていた扇がエゼクの仮面の留め具にぶつかったのだ。
仮面は、「カランッ」という音を立てて床に落ちていた。
仮面に隠されたエゼクの素顔を見た貴族たちは、悲鳴を挙げて逃げ出していた。
エゼクの怪我は酷いものだった。
皮膚は爛れて、唇から頬にかけて、左側の顔の肉が抉れて口内が見えていたのだ。
エゼクは、とっさに手で顔を隠したが遅かったのだ。
「キャー!!化け物!!」
「ひっ!!なんて醜い顔なの!!」
「ば、化け物……」
そう言って、貴族たちはエゼクから距離をとって彼に酷い言葉を言い放ち、恐ろしいものでも見てしまったかのような引きつった表情をして、エゼクから目を逸らしていた。
大事な弟に対してのあまりの仕打ちにガウェインが、怒りの咆哮を挙げようとしたその時だった。
「はい。落ちてましたわよ?あら、貴方顔色が悪いわ。う~ん、そうだ!!お腹が空いているのね。それなら、あちらに美味しいごはんがあるからいらっしゃい」
そう言って、青ざめて動けずにいたエゼクに声をかけるアンリエットがいたのだ。
アンリエットは、エゼクに仮面を渡したその手で、彼の手を握ったと思ったら、そのまま手を引いて料理コーナーにスタスタと歩いて行ってしまったのだ。
呆気にとられてそれをただ見ていたガウェインは、遠ざかるその丸々とした後ろ姿に見入っていた。
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