デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~

バナナマヨネーズ

第一話 死亡しないため脂肪

「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」


 そう言ったのは、伯爵家の長女であるジェシカ・ロンドブルだった。

 ジェシカは、ぷくぷくとした指で、妹であるアンリエット・ロンドブルを指差した。

 姉から、このままでは死んでしまうと言われた、アンリエットは、神秘的な紫水晶の様な瞳を潤ませて、姉に助けを求めていた。

 

「わたし……、死んじゃうの?わたし、死にたくないよ……」


 アンリエットが、瞬きをすると目尻から透明な雫が一筋頬を伝った。瞬きをしたことで、長いまつ毛に、涙が付き、アンリエットの神秘的な瞳がより一層美しい宝石のように輝いていた。

 

 それを見たジェシカは、気に入らないとばかりに鼻を鳴らしていたが、死の宣告をされたアンリエットは、そんなジェシカの様子には全く気が付いていなかった。

 

 ジェシカは、子供にしては邪悪な笑みを浮かべて、ある提案をした。

 

「大丈夫よ。マナの代わりに、脂肪を蓄えればいいのよ。そうすれば、脂肪がマナの代わりになってくれるから死なずに済むわ」


 ジェシカのまさかの提案に、アンリエットは言った。

 

「さすが姉様です。分かりました。わたし、今日から頑張って脂肪を蓄えます!!」


 アンリエットは、ジェシカからの提案になんの疑問も抱くこともなく受け入れていた。

 

 元々食が細く、少しでも食事の量が減ると直ぐに体重が落ちてしまうアンリエットは、その日から必死に食事をするようになった。

 死なないために、吐きそうになるのを耐えて、耐えて耐えて、食べ続けた。

 それだけでは足りないと、食べては寝て。寝ては食べてと、日々、どうしたら脂肪が付くかと試行錯誤していた。

 

 その甲斐あってアンリエットは、順調に脂肪を蓄えていった。

 

 死なないために脂肪をつけること10年。

 アンリエットは、14歳となり社交界デビューを果たしていた。

 

 アンリエットは、家族からキツく言われていたため、社交界デビューするまで、伯爵家の敷地から外に出たことがなかったのだ。

 

「伯爵家の娘ともあろう者が、そんなだらしない姿を晒して恥ずかしいとは思わないのか!!」


 父にそう言われても、命がかかっているアンリエットは、笑顔でこう返していた。

 

「お父様。わたし、この姿を恥ずかしいだなんて、微塵も思っておりません」


 その答えに、最初はキツく叱り飛ばしていた父親も、いつしか諦めていた。

 

「好きにしろ。ただし、家から出ることを禁止する」


 アンリエットは、家から出ることを禁じられても動じなかった。彼女は、家の書庫にある本が読めればそれで十分だったからだ。

 

「アンリエット!!伯爵令嬢としての自覚はないの!!少しは、美しくなったジェシカを見習いなさい!!そして貴方は、醜いながらも努力をしなさい!!」


 アンリエットは思った。自分は死なないために十分努力して脂肪をつけていると。

 だから、自信を持ってこう言ったのだ。

 

「お母様。わたしは、十分に努力をしてこのプロポーションを維持しております」


 母親は、アンリエットの返事を聞いて激怒したが、いつしかアンリエットのことを居ないものとして扱うようになっていた。

 

 社交界デビューを果たしてからアンリエットは、周囲から子豚令嬢と嘲笑われるようになっていたが、いつもニコニコとした表情で、全ての嘲笑を受け流していた。

 

 書庫で読んだ本に書いてあったお気に入りの言葉があったからだ。

 

 

 【笑う門には福来たる】

 

 

 笑っていれば、良いことがあるというその言葉に、アンリエットは勇気づけられていたのだ。

 だから、誰に何を言われてもニコニコと微笑むことを忘れなかったのだ。

 体型のせいで、可愛いドレスを着れないけど、ニコニコと笑っていれば、少しは愛想の良い子だと周囲に思ってもらえるのではないかと考えたからだ。

 

 アンリエットは、脂肪という鎧と笑顔という武器で武装して今日も厳しい社交界を生きていた。

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