第6話:父親

 翌朝、俺たちが目を覚ましたのは、おっさんの野太い悲鳴を聞いてのことだった。


「……っんだよ親父……ゴキブリでも出たのか?」


 天田が目をこすりながら体を起こしたとき、俺は悲鳴の主が天田の父親であることと、悲鳴の理由を察した。


「ち、違うんだ親父……」


「そ、そんなに慌てふためいて……」


 あ、これあかんやつや。

 焦りを見せる天田に、俺はすぐにも誤解を解く必要を感じた。


「おはようございますご尊父。本来なら昨日のうちにご挨拶するべきところ大変失礼しました」


「いや君はもっと慌てふためこうか」


 つとめて平静を装い挨拶した俺に、つられて急に冷静になった天田の父親が返す。


「おっしゃりたいことはわかります。俺とご令嬢は異性であり、年齢的にも、同室で寝ることは推奨されることではない。ましてや、寝相の結果とはいえ同衾などもってのほか」


「うん、そうだよね」


 平静を装うモードでひとまず天田の父親に同意する俺と、うなずく天田の父親。


「弁解をさせていただくならば、俺とご令嬢の関係は、ご令嬢の竹を割ったような性格もあり男同士の友人関係と表現するのが最も適当であるため、そのあたりの意識が俺にも、ご令嬢にも不足していました」


 腕を組みながら、ひとまずの事情の説明まで終えたところで、横で黙ってみていた天田が爆発した。


「だー! なんか難しい言葉つかってんじゃねー!」


 天田はこういうしゃべり方は好きではないらしい。


「しゃーないだろ、ここで年齢相応に慌てて『違うんです』とか『誤解です』とか早口で支離滅裂に言い訳してたら誤解を加速させるだけだしなんかお前は火に油注ぎ始めるし」


「まあ、そういうところだろうと思っていたというか、願ってはいた」


 いつもの調子に戻った俺たちを見て、ひとまず天田の父親は矛を収めてくれた。


「が、父親としてはっきり聞いておきたいことがある」


いや、矛を収めるかどうかを判断する段階だったらしい。


「なんでしょう」


 問い返す俺に、天田の父親は言いにくそうに口を開いた。


「その、不純な行為など、していないだろうね?」


 なるほど娘を持つ親としては一番気になる部分だろう。何を隠そう、うちの親父も俺に、美九とやっていないか心配そうに時折聞いてくるのだ。


「まさか。こいつじゃ立ちませんよぶべらっ」


 口を滑らせる俺の顔面に飛んできたのは、天田の裏拳。


「なあ、門倉、オレも一応乙女なんだぜ……」


「ごべんなざい」


 襟首をつかんでくる天田が割と本気で怖い。


「うん、二人の関係がはっきり分かった。がんばれ若人。節度を守っていちゃつくんだぞ」


 不穏なことを言い残し、天田の父親は立ち去った。早朝から仕事に行くようだ。

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