第3話:持つべきものは友

 翌日の放課後、大荷物を抱えた俺は無二の友人のもとへ向かった。


「というわけで、今日からよろしく頼む」


「いいけどよ、お前の妹がヤンデレって初耳なんだが、オレ刺されないか?」


 無二の友人である天田涼子あまだりょうこは、俺から昨晩の話を聞いて命の危険を感じたらしい。


「わからん。が、全力で阻止する」


 俺が眠るための努力をした結果親友が妹に刺し殺されたとか、罪悪感でもう二度と眠れない気がする。


「そこは『お前は俺が守る』とか言えよな」


 不満げに鼻を鳴らす天田だが、そういうのが似合う柄でもない。

 なんというか、一言でいうならおっぱいのついたイケメンなのだ。こいつは。


「油断すると天田から言われそうなんだよな、それ」


 つい、本音が口をついて出る。


「オレは言われたい側なんだけどな」


 が、天田もそういう部分では女の子であったようだ。


「そうか。じゃあ言ってみるか。……天田、お前は俺が守る」


 言ってすぐ、猛烈に後悔した。


「て、照れるな……」


「ああ。言ってて恥ずかしいわこれ」


 互いに赤面し、目をそらす。なんで天田とこんな青春シチュエーションみたいになっているのか。気まずくて仕方がない。


 そして、俺がそういう状態になるのを、あのヤンデレが見逃すはずもなく。


「お兄様をたぶらかす雌犬のにおいがしたので参りました」


 疾風怒濤の勢いで妹、美九が突撃してきた。


「ハウス」


「なんで私が犬なんですか!」


「うるさい帰れ匂い中毒2号。未洗濯のパンツは毎日渡してやるから洗濯して返せ」


 そうしないと禁断症状起こして襲ってくるのは経験済だったりする。


「本当ですか!?」


 美九は小躍りしながら帰っていった。


「お、お前、大変な家族なんだな……」


 そういえば美九と対峙するのは初めてだった天田が引いていた。


「おふくろと妹はあんな感じだけど、親父は日本語が通じるからまだ大丈夫」


「それ、今日から親父さんがストレスで禿げたりしないか」


「……ありうる」


 許せ親父、今度のバイト代で育毛剤プレゼントするから。


「ま、まあ、とりあえず今日からはうちでゆっくり寝ていけよ。親父さんの心配は、自分の睡眠不足を何とかしてからまたすればいい」


 今は天田の優しさが目に染みる。


「恩に着る。持つべきものは友だな」


 なんで恩に着るなんぞと口走ったのか、普通にありがとうと言わなかったのか、俺もわからない。動転していたのは確実だろうが。


「じゃ、帰る前に晩飯の買い出ししてくから、荷物持ちは任せるぜ」


 湿り気の多い俺とは対照的に、さわやかにウインクなど飛ばしてくる天田。


「任せろ」


 大荷物を背負っていても両手は空いている。そのくらいはお安い御用という奴だ。


「そこは『デートだな』とかいうとこだろ?」


 天田が不満げに頬を膨らませるが。


「天田、またあの変態を召喚したいのか?」


 美九に絡まれたくない俺としては、できれば応じたくない。


「オレが悪かった」


 どうやら同意見であったらしい天田は、肩をすくめて手のひらを天に向けた。

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