母さんが父さんを好きすぎて俺の睡眠時間がマッハ
七篠透
第1話:はよ寝ろ!
俺、門倉雪人は寝不足である。
授業中に居眠りしそうになった時、気付け代わりに誰でも持っている折り畳みナイフを左手にぶっ刺して保健医に物凄く怒られたことがある程度には寝不足だ。
もちろん、それには原因がある。
いつだって俺は、今日こそ普段足りていない睡眠をとり返すと決意し、9時半には部屋の電気を消してベッドに入る。だが、いい感じに眠りが訪れたあたりで、襲撃者が俺を叩き起こすのが日常である。
「九郎さんがまだ帰ってこないの! 雪人何か聞いてない!?」
母、門倉美雪という名の騒音源が。
なお、部屋の前に張り紙をしてもこの馬鹿母は読まないし、ドアが開かないようにすると破壊して入って来るので無駄な抵抗は諦めている。
「朝飯の時に言ってただろ。プロジェクトが片付いて打ち上げやるから遅くなるとかなんとか」
「でももう11時なのに!」
「大人の飲み会のことは分からないけど、この間OB訪問とかで高校来たおっちゃんは2次会まで入れると11時過ぎるとか終電ぎりぎりまでやるとか、ってこともあるとか言ってたし、そんなにおかしいことじゃなくね?」
「なんでそんなに九郎さんに冷たくするの! お父さんなのに!」
「冷たいのはあんたにだよ!」
そろそろこの馬鹿母をはっ倒そうかと考え始めた俺に、救世主が舞い降りた、
「ただいまー」
親父だ。これでひとまず母のヒステリーは収まる。
まあ、別の騒ぎが起こるだけなんですけどね。
「九郎さん! お帰りなさい!」
「だー! 毎日毎日帰って来るなり抱き着いて匂いを嗅ぐのをヤメロォ!」
猛烈に匂いを嗅ぐ母親を引きはがそうとする親父、という構図の乱闘が。
「なあ親父、お袋の匂い中毒はもうどうにもならんと思うんだ、俺」
「悟った顔してないで助けてくれ雪人!」
「パンツと肌着、洗濯せずに翌日のお袋のお守りにしてやってくんねえかな」
「なんてことを言うんだ! 父親のパンツをかぶった母親の作った朝飯とか食いたくねえだろ! 俺だって自分のパンツ被った嫁の作った朝飯なんざ食いたくねえ! 新婚の時に美雪さんマジでやってたからな!」
「頼むよ親父……夜毎に騒ぐお袋のせいで、寝不足なんだ……」
「くっ……すまん雪人、だが父さんもこれは、これだけは譲れないんだ……!」
「お互い苦労するな……親父」
「今度の週末、一緒に精神科に行こう。きっといい睡眠薬を処方してくれるよ……」
乱闘しながらも親父の匂いを嗅げてご満悦の母を尻目に、俺と父は目元を湿らせながら背中を煤けさせるのであった。
「とりあえず」
とはいえいつまでもそうしているわけにもいかない俺は、親父に絡みつく馬鹿母の背後に回った。
ここから首筋に手刀、などという生ぬるい手は使わない。
チョークスリーパーで、一気に締め落とす!
「はよ寝ろ!」
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