希望と絶望

「何がなんだかわからないもんだ。なんで、あの奥様は怒ったり泣き叫んだりして倒れなすった?  天女みたいな顔だったな。しかしやはり女はさっぱりわからん」



 コウタンは数人の手伝いと部屋に取り残された。コウタンはかなりの知りたがりであった。それが高じて医の道へと進んだのだった。変わり者ではあるが、手先が器用であり、事実何人も命を救っていた。薬剤よりも外科的処置が得意だったのだ。



 周囲が驚く程の医師ぶりを見せて周りに指示をして、手術の準備をすすめたのだった。




 シュウシュウは気を失い、自室に運ばれていた。夜もふけて、大量の星空の中、多英は庭にいた。山の夜は寒かった。満天の星に多英は吸い込まれるようにして立ち竦んでいた。



 侍女の紗沙が多英に話しかける。



「多英様。あの将軍様の腕は切り落とされました」



 武士の腕がなくなる。多英は砂瑠璃は嫌いだったが、何とも言えない気持ちとなった。


「…将軍様の息は?」



「生きてございます。コウタンという医師は凄いです。何時間も集中して、綺麗に切り落とすと縫ったそうです。…その際に、将軍様は息を吹き返し叫びましたが、男達で押さえました。暫くすると気を失いましたが、生きております」



 紗沙は下男からこう聞いていた。



「痛みじゃないですよ、自分の左腕が切り落とされるのを嫌がってたんですよ、あの将軍様は。半分まで抵抗してましたよ。それからあきらめて気を失いなすった。痛みというより、絶望ですよ」


 紗沙の胸は痛んだ。そしてシュウシュウが目を覚まさないことに気を揉んでいた。



「シュウ様のご様子は?」



 紗沙が聞く。多英はまだ眠っている、といった。



 紗沙は多英がシュウシュウを心から大事にしていることを知ってるので、そのことにも胸を痛めた。



 シュウシュウは明け方目を冷ました。



 そして泣きながら部屋から出ると、紗沙から腕を埋めた場所を聞くと長い珠々を持ち、ずっとそこに額をこすりつけ、周りは戸惑ったがシュウシュウを止められなかった。



 シュウシュウは砂瑠璃の熱が下がったと、その日の夕方、同じ場所でしゃがみこんでいた時に連絡を受けたが立ち上がれずにいた。


 砂瑠璃の腕を奪ったことに、本人の前でとても謝れないと思ったのだった。

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