第8話 光がしめすもの
月明かりを頼りに森を進む一向は、重りを着けたような足をひたすら前に踏み出し、疲れ果てた様相の中、森の守り人が住まう集落を目指していた。
「あ、足が、鉛のように、重いぃ、、、」
ふりしぼる様に声を出したロゼッタは、今にも倒れそうだった。
「だ、大丈夫か?無理な時は、倒れる前に言えよ。オブってやるから。」
ロゼッタを心配した一ノ瀬は目の前を進むボロボロのローブを見つめ声をかけた。その言葉を聞いたロゼッタは少し恥ずかしそうに振り向き、一ノ瀬に「だ、大丈夫だよ!?」と微笑み、また前に振り返ったが、その顔は少し嬉しそうにもみえた。
「姫様、もうそろそろ見えてくるはずですので、頑張って下さい!」
クラインもロゼッタを気遣い声をかけた時、ズルズルと引きずられる音と共に背後から信じられない音を三人は聴いた。
「、、、グーー、スピーー、、、グーー、スピーー、、」
振り返る三人の目に映ったのは、未だ引きずられているベルトレが、一向の気も知れずにうつ伏せの状態に慣れてしまったのか、そのままイビキをかいて寝ている姿だった。
三人は静にベルトレを取り囲んだ。尚もうつ伏せでイビキをかいているベルトレに対し座った目を向け、三人は大きく片足を上げ、同時にベルトレの後頭部を(ドスッ!)と踏みつけた。
「フングッ!??」
地面に顔面がめり込むほどの踏みつけにイビキは止まり、一瞬声を出したベルトレは静まり、暗闇に沈黙がうまれた。
「、、ンッ、、グフォァ!」
沈黙をやぶったのは地面にめり込んだ顔面を引き抜いたベルトレ自身だった。酸素を求めるように呼吸をしながら咳き込むベルトレは落ち着きを取り戻しながら三人に叫んだ。
「ハアッハア、ゲッゲホゲホ、、殺す気かー!!!」
いまだ死んだ魚の様な目を向ける三人を代表するように、一ノ瀬がベルトレに問かけた。
「ベルトレ、一度しか言わないからよく聞いて答えて。」
淡々と喋る一ノ瀬の目に光は無く、まるで人形に語りかけられているように感じるベルトレは、一ノ瀬に畏怖した。
「A、この先の集落まで自力でついてくるか? B、この場で土に埋められ、木々の栄養になるか? C、自害するか?」
(えっこれ実質二択では!?)
一ノ瀬の質問に戸惑うベルトレであったが、一ノ瀬から無意識に発せられる魔力に気圧されながらも、ベルトレは静かに答えた。
「じっ自力で、着いていきます。」
暫く森を歩くと、ロゼッタが前方の木々の奥で光を見つけた。
「あっ!光が見えた!きっと守り人の集落だわ!!」
歩き続けた疲労と、まともな食事を取れてない空腹感からの半ばロゼッタの希望にも聞こえたが、小走りでかけて行くロゼッタについて行くと光は集落からの灯りだという事が分かった。
一同は遂に木々の切れ目を抜け、森の中にある守り人の集落にたどり着いたのだったが、三人は暗闇から突如として現れた光景に目を見開いた。その景色は驚くべき事に、都会に建つ高層ビルのような大きさの大木が二本地面からそびえ立ち、大木は幹の真ん中辺りで絡み合い、左右に大きく枝を伸ばし、空を覆っていた。更に、地面から二本の幹が絡み合っている部分までのおおよそ15階建てのビルほどの高さまでには、数えきれないほどの民家や商店らしき建物がが建てられており、その光景は無数の星がアーチを作っているかのようだった。
「、、、集落、てレベルじゃ、なくね?」
森の中に数件の民家が貧しく建っているイメージだった一ノ瀬は未だ目の前に広がる景色を信じられずにいた。そんななか、一ノ瀬ほどでは無いにしろ、ロゼッタとクラインも、(聞いてた話しと違う!)と言うような表情をうかべていた。
皆が圧倒されるなか、一人ベルトレはその瞳に哀しみを映し、懐かしむ様に目の前の二本の大樹を見ながら独り言を呟いた。
「戻って来てしまったよ、、、、ただいま。アダム。イヴ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます