第6話 共に進むため

「ベルトレ!そこで何をしている!?」


一向の後方にある木の上で横になり休んでいるベルトレを見かねたクラインが声をかけた。








「我のような高位の魔族でさえ、永遠と飛び続ければ、魔力も消費され疲労する。だから休んでいる。見て分からんのか?」








ベルトレの言葉に額に青筋を入れ、真顔で何かを堪えるようにプルプル震え、確実にキレているクラインを横目に一ノ瀬がベルトレに語りかけた。


「ベルトレ!皆疲れていても早目に森を抜けようと頑張ってるんだから、一緒に先を急ごう!」


「そうだよ!ほらよく言うでしょ、果報は寝て待てって!」


「いや。それベルトレを肯定してるかな。」








自信満々に言い放ったロゼッタに対してでも、見逃せなかった一ノ瀬だった。そのようなやり取りをしてると、べルトレが気だるそうにしゃべってきた。








「先を急ぐのは大いに結構だが、貴様らの歩く速度に合わせてゆっくり飛ぶのにはかなり骨がおれる。さらに、先に飛んで行けば召還魔法で元の場所に引き戻されるわ!眷属の魔獣を召還させられ、常時周囲の警戒をさせるわ!我の苦労も少しは考えてみろやー!!!」








木の上で不満を絶賛爆発中のベルトレは、キレながらも立ち上がる気配がまるでなく、一向はひとまずその場で一息入れる事にした。








「一ノ瀬」


暫くしたとき、急に木の上のベルトレから呼ばれ、一ノ瀬は木の上でくつろいでいるベルトレを見上げた。








「貴様は召還されたばかりのはずだが、何故召還魔法を扱えるのだ?」


ベルトレはそのまま質問をつづけた。


「召還された者はこの世界の理に疎く、魔法はおろか、魔力の扱いすらままならないと聞いていたが、貴様は先程、我を呼び戻す際に召還魔法を使用し、さらに我が貴様に敗れた時、魔法とは違うが、高密度に圧縮された魔力を纏っていた。それもかなり膨大な魔力を。」








ベルトレから初めて自身の事に対して質問をしてきた事に少し驚いたが、一ノ瀬はベルトレに答えはじめた。








「えっと、召還魔法は、森を歩きながらロゼッタから教えてもらったんだけど、使い魔の召還と転送は、通常の召還魔法と違って、使い魔との契約により、手を前に出して念じるだけで出来るみたい。」








(まーたお前か!)


ベルトレは冷ややかな視線をロゼッタに向けたが、小腹を満たすため、森を歩く道中でクラインが採っていた果実を幸せそうに食べていたため、ロゼッタはベルトレが放つ殺気には気付かなかった。そんな中、一ノ瀬はベルトレに話を続けた。








「ベルトレと戦った時の事は、正直自分でもよくわからなくて、気づいたら右腕に力がみなぎってたというか、不思議な感覚だった事は覚えているんだけど。」








一ノ瀬の話しを聞いてベルトレは暫し思考を巡らせていた。それというのも、魔法を使える者でも魔力を操るのはかなり難しい。だが一ノ瀬の場合、純粋な魔力のみを目で確認ができるほどに高密度に圧縮し、膨大な魔力をからだの一部に付与してみせた。偶然であってもそう易々とやってのけれる事ではない。








「、、、そうか」


ベルトレは、一ノ瀬の中に潜む潜在能力をはかり知れずにいた。








「なあベルトレ、」


ベルトレに今度は一ノ瀬が問いかけた。


「お前に聞きたい事があるんだけど?」








ベルトレは何も言わず、視線だけを一ノ瀬に向けた。








「なしくずしとは言え、これから一緒に旅をして行く事になったしさ、今までの事を水に流すとまでは言わないけど、お互いあだ名を付け合わないか?」








一ノ瀬の問いかけにベルトレは思考した。今の関係は高位の魔族であるベルトレにとっては屈辱と言ってさしつかえない主従関係であり、今後も下僕として旅を続けるよりかは幾分かましなのではと考えた。暫しの思考を終えベルトレは一ノ瀬に語りかけた。








「我の事はベルと呼べ。分かったか一ノ瀬?」








全て聞き入れてはもらえなかったが、全否定をされると思っていた一ノ瀬達は少し驚きつつも、ベルトレに返事を返した。








「ああ!改めて宜しくな!ベル!」


「私も改めてよろしくね!ベルちゃん♪」








ロゼッタの言葉に露骨に嫌そうな顔で、怒りに身をプルプル震わせながら、ベルトレは地の底から這い上がってきたような声でロゼッタに喋りかけた。


「ちゃん付けは、やめろ。」








そのやり取りの陰で一人笑いを堪えて愉快そうに震えるクラインの事は誰も知るよしもなかった。


(今度ちゃん付けで呼んでやろう。ww)

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