第1541話 冒険者

「べー様。地下迷宮へ続くと思われる穴を発見しました」


 ミタさんが子どもの頃と言ってたから、軽く五十前だろう。五十年も前のことだから誤情報かな? と思ってたらなにやら本当にあるっぽいな。


「誰か入ったか?」


「いえ、照らしたところかなり深い穴でした。壁に蔦は生えてましたが、我々の体では無理なので報告を優先しました」


「そうか。なら、オレらが先に入るか」


「見習いさんたちが泣きそうになってますよ」


 泣きてーなら泣けばイイさ。大人になったら泣くに泣けねーからな。


「とは言え、オレだけじゃ不安だし、専門家呼ぶか。ドレミ。アリテラたちがどこにいるかわかるか?」


 最後に見たの……あれ? どこだっけ? カムラから離れまでついて来た記憶はあるが、いろいろいきすぎて思い出せねーわ。アハハ。


「カムラの港町、元冒険者の館にいらっしゃいます」


 あーあそこな。では、転移バッチでレッツらゴー! ねーちゃんら、いる~?


「……べーくんは本当に神出鬼没ね……」


「今度はどこに連れ去る気?」


「魔大陸だ。ねーちゃんたちに地下迷宮を調べてもらおうと思ってな。依頼料はこれで」


 カムラで稼いだ金貨を騎士のねーちゃんに渡した。


「……べーくんの依頼、難易度高すぎるのよね……」


 オレ、難しいこと頼んだことねーだろう。


「別大陸とか海の中とか宇宙とか、冒険者の手に余ることばかりだと思いますが」


 それはオレの手にも余ってますが?


「危険な場所なの?」


「変わったゴブリンがいるって情報がある以外、なんもわかんねー。ただ、人魚の遺跡の可能性は高いな」


「それ、わたしたちの手に余ってるわよね」


「謎を解き明かせって言ってるわけじゃねーよ。冒険者としての戦闘能力と経験、あとは勘だな。メンドクセーことはそのままで構わねーよ」


 オレが前面に出ると碌でもないことが起きそうだからな。


「気にしてるんじゃないですか」


 き、気にしてるわけじゃないし! 念のためだし! 


「まあ、無理には言わねーよ。他を当たってみるからよ」


 冒険者の知り合いはまだいる。まあ、どこにいるかは知らんけど。


「わかった。引き受けるわ。目の前にある冒険から逃げたら冒険者失格だもの」


「そうね。せっかくの冒険、逃したら損だわ」


「うんうん。いこう」


「冒険者は冒険をしてこそね」


 根っからの冒険者なねーちゃんたちだ。


「じゃあ、引き受けてくれるってことだな?」


「ええ。ベーくんの依頼、闇夜の光が引き受けるわ」


 ってことで魔大陸へ戻った。


「……ここが魔大陸なのね……」


 なにもない大地を見て感動するねーちゃんら。冒険者の感動ポイントがよーわからんな。


「まあ、まずここの気候に慣れるために半日くらい見て回ってきたらどうだ? 食料と水は用意すっからよ」


 オレはどんな環境にも瞬時に慣れれるが、大陸から出たことがねーねーちゃんらにはこの乾いた気候は厳しかろう。二、三日体を慣らしたほうが耐性もつくだろうよ。


 ……変な病気になったらエルクセプルを飲ませてやるから安心しろな……。


「身近な人すら実験対象ですか」


 なったらって話でしょうが。ならないならならないで喜ばしいと思ってるよ。


「それもそうね。せっかく来たんだから魔大陸を見てみたいしね」


「わたしら、魔大陸に初めて来た冒険者じゃない?」


「ふふ。言っても信じてもらえなさそうね」


「わたしたちが知ってればいいことよ」


 なんか羨ましい関係だな。オレも仲間と一緒に冒険とかしたくなる光景だぜ。


 ねーちゃんらに食料と水、あと万が一に備えて強めの結界を纏わせておく。


「二日過ぎても帰って来なかったら迎えにいくからな。ここには竜とか魔王とか普通にいるからよ」


「危険なことの見極めはできるわ。でも、そのときはお願いするわ」


「魔王には会いたくないけど、竜には会ってみたいわね」


「竜にも会いたくないわよ」


「ベーがいたらどっちもよって来ないわよ」


 いや、君たち魔王も竜も見てるから。なんなら勇者にも魔女に会ってるからね。


 なんて突っ込みは野暮なので、食料と水を渡してねーちゃんらを見送った。


「ワリーが、遠くからねーちゃんらを見守っててくれや」


 巌窟王を持つ……なんだっけ?


「ルダールさんですよ」


 あ、ハイ。ルダールさん。お願いしまーす。


「畏まりました。気づかれず見守ります」


 理解できる指揮官でなによりです。

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