第1478話 マームルとザーネル

「交渉はお前がやれ」


 そう言うとじーさんは別の席に座って本を読み出した。徹底しててなによりだ。


「まずは自己紹介といこうか」


 レイコさん。ちゃんと覚えてね。頼りにしてるから。


 席には四人の老人と三十代前半の男、そして、二十半ばの女がいた。


「オレはヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。まあ、長いんでべーと呼んでくれや」


「わたしたちは市会の代表、ローズエル。あなたのウワサはかねがね聞いておりますよ」


 そう言ったのは三十代前半の男だった。


「そうかい? 悪いウワサでないことを願うよ」


「どうぞこちらへ」


 控えていた男が椅子を持ってきてくれ、長老会のテーブルへと入れてもらった。


「わたしの右側から西、北、東、南の長老で、女性は次期代表でライネ。わたしのあとを継ぐので同席させています」


「若いのにもう引退かい?」


「本業があるので五年交代で代表は代わるんですよ」


 実力者が、ってわけじゃないんだ。


「平和的でなによりだ」


 どうやらマフィア的な集まりではないようだ。


「そうですね。昔は血を血で洗うことがあったようですが」


「今を作った先人に感謝だな」


 東北南北の長老を見た。こちらは血で血を洗う世代なんだろうよ。


 無限鞄からエルクセプルが六つ入った箱を取り出した。


「じーさんから聞いた通り、これを売りたいんでよろしく頼むわ。取り分とかはそちらの言い値で構わねーよ」


 ものがものだ。きっと大変なことになるだろう。手間賃だと思えば半分取られても惜しくはねーさ。


「効果は見せていただきました。ですが、出所が怪しいものは競りには出せません」


「出所? オレが作ったから出所はオレだよ。オレ、薬師。前も回復薬を出したクソ生意気なガキだよ」


 五年で代わると言うなら出したときもローズエルだったはず。それなら知っているはずだ。


「マイゼル様」


 なにか非難の目をじーさんに向けた。そしてじーさん、マイゼルって名前なんだ。


「こいつのことはわしが保証すると言ったろう」


「そうではありますが、彼はいったい何者なんですか?」


「村人とほざく非常識な子どもだ。わしの言葉が信用できんならマームル・アイゼンやザーネル・クラウダにクソ生意気な村人と自称するガキを知ってるかと問えばいい。こいつの特徴を的確に教えてくれるだろうよ」


「あ、じいさん、マームルだったな!」


 ザーネルはショタ好きで、毎年隊商を引き連れてくる巨乳のねーちゃんな。


「あと、こいつはよほどのことがなければ人の名前を覚えることはない」


「覚えようとはしている、ただ、忘れるだけだ」


「こう言うヤツだからマームルも苦労させられておるよ」


 可哀想にと呟くじいさん。オレ、マーブルじいさんに迷惑かけたことないよ。


「言ってる側から名前を間違えてますよ」


 あれ? マーブルじゃなかったっけ? まあ、なんでもイイよ。


「アイゼン商会かクラウダ商会に人を走らせて非常識な村人が来たと言えばすっ飛んでくるだろうさ」


「ここにも支店があるんだ」


「カムラでも一、二を争う商会だ。ないわけがなかろう」


「デカいとは聞いてたが、オレが思う以上にデカかったんだな」


 会うのは広場でだし、偉そうな態度も見せねー。ちょっとした商会のご隠居って感じだから店の規模までは想像できなかったよ。


「わかりました」


 と、ローズエルが席を立ち、どこかへと駆けていった。


「戻って来るまで外を見て回ってもいいかな?」


「大人しく待っておれ。ザーネルからお前は目を離すとどこに消えるかわからんと言ってたからな」


「随分と仲よさげだな?」


「ザーネルの祖父とは親交があったからな。ここに来たときは必ず挨拶に来るよ」


「へー。律儀なねーちゃんだ」


「クラウダ商会の裏を仕切る女だからな」


 あ、裏方だったんだ。自己主張が激しいから表で仕切ってると思ってたよ。


「しょうがねーな。大人しく待つとするよ。ドレミ。皆さんに紅茶と菓子を。オレにはコーヒーを頼むよ」


「イエス、マイロード」


 猫から幼女型メイドにトランスフォーム。驚く方々に構わずお茶を出してくれた。あーコーヒーうめー。

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