第1284話 鈍感系主人公
「フヒ。ウヒヒ」
肉片となったワーガーを切り刻む魔女サダコ。こいつは世に出してはダメなタイプだ。
「それを世に出したのはベー様ですけどね」
「…………」
オレに憑くのは突っ込み属性のヤツしかいないのか?
「プリッシュ様と同じことを求められても困りますよ。わたし、あそこまで突っ込み上手ではないので」
君もメルヘンに負けてないよ! 無駄に誇りやがれ!
「委員長さん。終わったらあいつをひんむいてなにも持ち出さないようにしろよ。ああ言うのは絶対、懐に忍ばせるからな」
「経験者は語ると言うやつ?」
「帝国に生物災害って概念はあるかい?」
「……生物災害……?」
まあ、この時代にあるわけねーわな。隣の村にいくのも大変だからよ。
「生物ってのはその土地に合わせて成長進化するものだ。ここに合わせた生物が他の土地に移り、滅ぶこともあれば増殖することもある。滅ぶならイイ。だが、増殖した場合、そこに住む生物を駆逐したりする。そうなれば生物循環の理が崩れる。そうなった場合の未来は想像できるか?」
委員長さんは考えに入り、三十秒ほど地面を見詰めた。
「……なるほど。生物災害とはよく言ったものね……」
大した説明でもねーのに、生物災害を理解するか。やっぱりこの魔女は大図書の継承候補なんだな……。
「そうだ。もう災害だ。一旦環境が崩れたら回復するまで百年二百年は余裕でかかる。長生きなエルフでも知識がなければ環境を回復させるなんて無理だろうよ」
そう言って委員長さんを指差した。
「知識の守り人たる魔女よ。この知識を明日に繋ぐことを期待する」
「……あなた、責任をわたしたちに丸投げしたわね……」
「別に放り投げたいのなら好きにしたらイイさ。知識を受け継がない自由もあるだろうからな」
前世では報道しない自由もあったからな。きっと知識を受け継がない自由だって認められるさ。
「ふざけないで。わたしたちは知識に忌避をつけたりしないわ! どんな禁忌でも次世代に継ぐのがわたしたち魔女の誇りよ!」
善くも悪くも真面目な魔女さんだ。だが、だからこそ知識の番人として信用できるぜ。
「なら、その矜持を胸に魔女サダコをしっかり見張っておけよ」
「わかってるわ。って、なんなのよ、魔女サダコって?」
「狂気って意味だ」
ごめん。見た目が井戸から出て来る黒髪のレディとは言えません。なので狂気と言う意味にさせていただきます。
「ま、まあ、レイオルにはお似合いね」
狂気がお似合いって、本当にとんでもねー魔女を押しつけてくれたもんだぜ。手に負えないときは先生に面倒見てもらうっと。
「ヒヒ。いたいた。き、寄生虫がいた~」
なにを熱心に切り刻んでいるかと思ったら寄生虫を探していたのかよ。
「どんな寄生虫だ?」
寄生虫も千差万別。世界初のご対面となれば好奇心は爆上げである。
「……あなたもサダコじゃない……」
オレは節度と倫理を持つ好奇心旺盛なだけですぅ~。
「こ、これは、なんて言う寄生虫、でしょうか?」
ピンセットで糸のような寄生虫を摘まんで見せる魔女サダコ。
「あんたが初めて発見したんだから好きに名づけな」
「わ、わたしがつけていいんですか?」
「早い者勝ち。名前をつけて本にしたヤツが正義だぜ」
結界でピンセットを創り、魔女サダコが持つ糸状の寄生虫を伸ばしてみる。
「線形動物と言ったっけか?」
学んだ記憶はあるが、細かいことまでは覚えてねー。転生するとわかってたらもっと勉強してたのによ。
「ど、動物なんですか?」
「オレも詳しく学んだわけじゃねーから説明できんが、分類分けだと思う。人やエルフ、獣人は似ているが別の種だろう? 人も細かく分けたらいろいろあるだろう?」
「は、はい。わ、わかります」
「なんの仲間でなんの種でなにに分類されるか。細かく調べると一括りでは片付けられなくなるんだよ」
「そ、そうなのですか?」
「まあ、極めれば、ってやつだな。それは自分で見つけていきな。おもしろいと思うから興味があるんだろう? なら、どんどんやったれだ」
人としてはダメな性格かもしれんが、学問を極める者としては恵まれた才能だと思う。
「……わ、わたしは、極めても、いいんでしょうか……?」
狂気の顔が年相応になって俯いてしまった。
ったく、しょうがねーな。
魔女サダコの背中を加減して叩いて顔を上げさせる。
「イイに決まってんだろう! 周りの声など気にすんな! 極めたら誰も陰口なんて吐けなくなるもんだ。下なんて向いてねーで前だけを見ろ!」
狂気な性格の持ち主ではあるが、その探究心は尊敬に値する。極めてオレの老後の楽しみとしてくれ、だ。
「……は、はい……」
目が狂気色に輝き、寄生虫を観察し始めた。
「……まったく、罪作りなベー様です……」
オレはオレのためになるならどんな罪でも背負ってやるさ。
「いや、そうではなくて、違う意味で罪作りだと言ってるんです」
はん? 違う意味の罪ってなによ?
レイコさんに問うが、答えてくれることはなかった。なんなんだよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます