第1256話 契約は交わされた

 次の朝。ちょっと寝坊してしまったが、体力気力はフル充電されました。


「曇りか。狩りにはちょうどイイ日だ」


「なぜよ?」


 うおっ! びっくりしたー!


「魔女、気配なさすぎ! もっと気配だせや!」


 なんでこの世界の個性的なヤツはキャラ濃いのに気配を出さねーんだよ。いや、気配のないのが後ろにいますけど!


 ……ちなみに背後の幽霊さんは姿を消して魔女観察中です……。


「あなたが単に鈍感なだけでしょう」


「館長を前にしても平然としてる人ですしね」


「まともな神経ではないんでしょう」


 その突っ込み三重奏は止めーい! トラウマになりそうだわ!


 なんてことは心の中だけに止めておきます。女に口では勝てないから。


 ……最近こいつら、オレに対して遠慮も容赦もなくして来たよな……。


 まあ、だからって敬って欲しいわけじゃねーが、優しくしてもらえると助かります。女性の言葉はとても切れ味が増すときがあるので……。


「それで、今日はなにをするの?」


「荷車を引っ張らせる竜を狩る」


 南の大陸にも馬はいるそうだが、この周辺ではいなそうだしな。


「わかったわ」


「え? ついて来んのか? 狩りだぞ」


 魔女って狩りもすんのか? 


「それも勉強よ」


 狩りがどう魔女に活かされるかはわからんが、学びたいと言うなら否はなし。好きにしろだ。


「ミタさん。また長殿とザイライヤー族の戦士たちを集めてくれ。あ、朝食も頼むわ」


「畏まりました。朝食はすでにできております」


 ミタさんが見る方向にはテーブルがたくさん並び、バイキングスタイルな感じになっていた。ほんと、世界観完全無視だな……。


 まあ、用意してくれたのなら文句を言うのはご法度。感謝していただきましょう、だ。


 長殿やザイライヤー族の戦士が来るまで朝食をいただくことにする。


「ベー様。お食事中申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?」


 と、カイナーズの青鬼っ娘さんがやって来た。どったの?


「カイナ様よりしばらくタケル様の側にいるのでこちらには来れないそうです」


 あ、タケルな。すっかり忘れてたわ。


「あっちは上手くやれてんのかい?」


 これが現実だとタケルだけが知らない作戦? だっけ? うろ覚えですんません。


「はい。皆さん元気にやっていると報告を受けてます」


「そうか。それはなによりだ」


 まあ、カイナがかかわっている時点でなによりにはなってねーと思うが、傷心しきったタケルには荒療治が必要。万事カイナにお任せだ。


 朝食をいただいていると、長殿とザイライヤー族のオネーサマ方がやって来た。


「朝食を一緒にどうだい?」


 もう九時くらいになってるけど。


「なら、遠慮なくいただこう」


 タダメシは別腹ってか? まあ、たくさんあるんだいっぱい食えや。


 長殿は年齢的にそれほど食わないが、ザイライヤー族のオネーサマ方は欠食児童のようにかっ込んでいる。


「食料、足りてないのかい?」


 横に座ったエース的オネーサマに尋ねた。


「いや、足りてはいるが、ここの料理はどれも美味いからな、つい欲張ってしまうのだ」


 ロールケーキを美味しそうに頬張っている。


「もしよかったら、ザイライヤー族ごとうちで雇われてみねーかい?」


 フォークの動きが止まり、こちらを見た。


「ザイライヤー族の掟に口を出すつもりはねーし、物資や食料も供給する」


「わたしたちになにをさせる気だ?」


 土魔法でコーヒーカップを模した紋章を創り出す。


「これを代々受け継いで、これと同じものを持った者が現れたら力を貸してやってくれ。あ、それには守護の力を持たせてある。竜の攻撃くらいなら問題なく防げるからよ」


 エース的オネーサマにオレの紋章を渡した。


「……意味がわからないのだが……?」


「だから、それを持った者が現れたら力を貸してやってくれってことだよ。オレの子か孫かはわからんが、味方を残しておきたいってことさ」


 そこにはオレも含まれている。仕込みは今からしておかないとな。


「……わかった。ザイライヤーの誇りに懸けて受け継ぐと誓おう」


「オレ、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィングとザイライヤー族との契約は交わされた。仲良くやっていこうや」


 南の大陸の一部とは言え、カバーできたのは僥倖。百年単位で約束を守ってくれる存在はそういねーからな。


「そうなると、ザイライヤー族と連絡できる場所か人が必要だな。そちらの要望はあるかい?」


「我らは放浪の一族だ。どちらも難しいと思う」


「なら、シュンパネを渡しておく。それを使ってうちに物資の補給に来るってのはどうだい?」


 シュンパネがどう言うものかを説明する。


「……それでいい……」


 なにか苦虫を噛み潰したようなエース的オネーサマ。偏頭痛かい?


「ミタさん。調整してくれや」


 もう館のことはもうわからん。ミタさんに丸投げします。


「畏まりました。メイド長と調整します」


 任せてよろしこです。


「そうやって伝を作っていくのね」


 オレらのやり取りを見てなにかを感じたのか、委員長さんらがザイライヤー族のオネーサマ方に接触を始めた。


 叡知の魔女さんからいろいろ使命を与えられているなだろう。ガンバレ、若き魔女たちよ。そして、その成果をオレが美味しく利用させていただきます。クク。

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