第1187話 レジェンド・オブ・ヒロイン

「……ロード。マイロード。朝になりました」


 ドレミの声で意識が覚醒する。


 なんだかダルい体を起こし、大きく伸びをする。ふわ~。眠っ。


「……何時だ……?」


 まだ開かない瞼をこすりながら尋ねる。


「七時前です」


 結構寝たもんだ。やはり疲れが溜まってるようだ。


 ベッドから抜け出し、風呂へと向かう。


「ん? 使用中? 誰か入ってんのか?」


 ドアに鍵がかかっていた。


 離れの風呂はメイドさんも使うので、鍵をつけた──と、ミタさんが言ってました。


 使ってるならしょうがねーと、回れ右しようとしたら「ガシャン」と鍵が解除される音がしてドアが開いた。


 出て来たのは十七、八くらの人族の女で、この周辺国の顔立ちをしてなかった。留学者か? いや、こんな顔のはいなかったはずだ。


「どちらさんでしたっけ?」


 転移結界門を入れたと言うことはうちの関係者か客かのどちらか。無関係の者が入れるようにはしてねー。


「レニスシェーンよ。レニスって呼んで」


「あ、レニスシェーンね。ゴメンゴメン。オレ、人の名前覚えるの苦手でよ」


「うん。知ってる。あ、どうぞ」


 ドアの前から退き、風呂への道を譲ってくれた。


「どうもです」


 ちょっくらごめんよと、風呂場に入った。


 パッパッと服を脱いで体を洗い、湯船へと浸かってビバノンノン。あ~イイ湯だな~。


 眠気が完全に覚め、ホカホカした気持ちで風呂から出る。


「あ、あんちゃん、おはよー!」


 居間に来ると、朝食の用意をしていたサプルに迎えられた。


 ……なんかスゲー久しぶりな感じだな……。


 いつも……と言うほど離れにいねーが、ブルー島に移ってからはミタさんやメイドさんが食事を作ってくれ、それが当たり前になるんだろうと思ってた。


 それがまた昔のような状況になるとは思わなかったぜ。


「おはようさん。サプルが作ってるのか?」


「ううん。作ってるのはミタレッティーさんだよ。あたしは手伝ってるだけ」


 そうなんだ。もうミタさんの場所ってことで遠慮してんのかな?


 席に座り、冷たい牛乳をお願いすると、カイナーズホームで買っただろうアメリカンサイズの瓶が現れた。


「レニスも飲むかい?」


「牛の乳って美味しいの?」


 おや。牛乳を飲まないところの人かい。まあ、この辺も牛乳飲まないけど。


「ああ。旨いよ。まあ腹の弱いヤツだと下しちゃうかも、だけどな」


「わたしは丈夫だからちょうだい」


 サプルにマグカップをもらい、牛乳を注いでやる。さあ、飲みんしゃい。


「へ~。さっぱりして美味しいじゃない。山羊の乳より好きだな」


 まあ、品種改良された牛……ってか、カイナが出してんだから飲みやすい……のか? いや、深く考えるのは止めておこう。気になりだしたら飲めなくなるわ。


「牛乳があるとフルー〇ェが食いたくなるな」


 姉御が作るフ〇ーチェ、久しぶりに食いてーな。


 ……いや、誰が作っても同じ味だけどよ……。


「あんちゃん、フルー〇ェってなーに?」


 そう面と向かって問われると、答えに窮するな。なんなんだ?


「まあ、デザートだな。ミタさんに訊いてみろ」


 ミタさんなら買い置きしてんだろう。作り置きしてるかはわからんけど。


「ミタレッティーさーん! フ〇ーチェってある~?」


「ありますよ~。なに味がよろしいですか?」


「なに味? あんちゃん、なに味がイイの?」


 それは好みによるからな、出だしはイチゴにしておけ。


 そう言うと、すぐにイチゴのフルー〇ェが出て来た。作り置きしてんのか?


 まあ、ミタさんだしと納得してイチゴ味のフ〇ーチェをいただく。うん。旨い。


「へ~。美味しいね。わたし、これ好き!」


 フ〇ーチェは偉大だよな。異世人すら魅力するんだからよ。


「おはよ~」


 と、プリッつあんが寝間着のままやって来た。珍しいこと。身嗜みはしっかりするのに。


「寝坊助だな」


「しょうがないじゃない。館とブルー島は昼夜が違うんだもん。まだ夜だと思って二度寝しちゃったわ」


 ちなみにプリッつぁんは離れの外にプリッスルを置いて、そこで寝てます。あと、プリッつあん専用のドアを作らされました。


「サプル。ホットミルクちょうだい」


 フラフラとソファーに墜落する。時差に弱いメルヘンやね。


「……ところで、その子、誰?」


 オレとサプルとレニスで顔を見合う。誰かって誰よ? って。


「いや、明らかにその子でしょう。ベーとサプルの知り合いなの? なにか自然に混ざってるけど」


「オレの知り合いではねーな。サプルの知り合いか?」


「レニスねーちゃんは、カイナのおじちゃんの孫だよ」


 へ~。カイナの孫か。いたんだ。


 フルー〇ェを一口。うん。旨い。


 ………………。


 …………。


 ……。


「え、マジで?」


「うん。マジで」


 そ、そうか。マジなんだ。じゃあ、しょうがねーよな。


「……なにかしら、この似たもの同士は……?」


 レニスを見ると、レニスもオレを見た。


「そうか?」


「そう?」


 まあ、他人とは思えないもんは感じるが、似てはいないだろう。


「混ぜたら危険な感じがするわ」


 もう遅いよと思ったけど、口にしたらなんか肯定したことになる気がしてスルーしておいた。

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