第1152話 二代目メイド長
と言うか、嫁とツインズを置いてって大丈夫なんかい?
なにも言わずさっさと帰ってしまったが、それで夫婦仲や親子仲が悪くなってもオレは知らんからね。
なんて、あの旦那ならフォローはしてるだろうから気にする必要もねーか。オレが気にするのは残された嫁とツインズの扱いだ。
身分の割りに護衛の数は少ないが、見えるところにはお付きの者が五人くらはいた。
見えないところにもいるだろうから最低でも十人はいるだろうが、それらを仕切るヤツはどいつだ? 感じからして嫁さんについているおば──ではなく、おねえさまっぽいが……。
「手練れが三人います、マイロード」
と、白いメイド服を着た美女バージョンのいろはが現れた。
影だか異次元だかに潜んでいるから常に側にいるんだろうが、潜みすぎて存在すら忘れてしまいそうになる。たまには出て来て存在を示しなさいよ。
「どんくらい?」
「戦闘力で言えばミタレッティー様に匹敵します」
そりゃまたスゴい。あの万能メイドに匹敵するとは。世の中、広いでごわす。
「特に、奥方の横にいる者は人ではありません。ご隠居様と同じ種族かと」
ご隠居さんと同じ種族? って確か、魔人族、あれ? 人魔だっけ? 人外になると種族とか関係なくなるからよく覚えてねーや。
「さすが帝国、ってところか。おっかねー」
いや、ミタさん以上に強いスライムが軍単位でいるオレのほうがおっかねーか。己のことでもビビるわ。
「ミタさんは、まだ戻って来ねーのか?」
万能メイドにしては遅いな。なんかあったんかい?
「あちらの護衛と調整しているようです」
と、教えてくれたのはドレミさんです。
「調整? なんの?」
「お互い、過剰な反応はしないようにです」
あ、うん。そうだね。あちらはともかくとしてうちは過剰な反応しちゃうもんね。アレとかコレとかいろいろとな……。
どうしたもんかと悩んでいると、ミタさんが戻って来た。調整は終わったの?
「ベー様。申し訳ありません。あちらのお嬢様方がプリッシュ様と離れたくないと駄々をこねてまして、我々ではどうにも説得できませんでした」
随分と気に入られたもんだ。まったく、メルヘンのなにがよいのやら……。
とは口が割けても言えませんので、心の中で嘆息しておきます。
「プリッつあんはなんて?」
「プリッシュ様も困っております。無理矢理帰ると泣かせてしまうと……」
そのままツインズのお家に遊びにいけば……って、よくよく考えたらレヴィウブに泊まりに来てんだよな。なら、しばらく一緒にいてやればイイじゃん。
と、思いつくくらいプリッつあんにもできるだろうから、理由は別にあるか。なんだ?
「お嬢様方の周りがうるさいそうです」
なるほど。プリッつあんを物扱いするヤツとは相成れないか。まあ、オレもそんなヤツとは一緒にいたくはねーな。
「なら、こちらに呼ぶか?」
周りが納得するかは知らんけど。
「プリトラスでは少々手狭かと。あちらの侍女方も来るでしょうから」
今さらだけど、プリトラスってなによ? なんか意味あんの? いや、ちょっと気になっただけだから深くは追及しねーけどさ。
「ヴィアンサプレシア号は、今どこにいるんだ?」
オレの手からどころか頭からも離れたからどこにいるかもわかんねーんだよね。
「帝都にいます」
「帝都に? よく許されたな?」
飛空船なんて現れたら大騒ぎになんだろう。どこの所属で許可をもぎ取ったんだ?
「シフ──メイド長が公爵様に働きかけて飲ませたそうです。ハイルクリット連合諸国の船として」
ハイルクリット諸国連合? なんやそれ?
「ハイルクリットって確か、ミタパパに任せた島だよな? いつの間に連合になったんだ?」
丸投げしたからなにをしようと構わんが、連合ってことは二つ以上の勢力があってこそだろう。うちと──あ、カイナーズか。なるほど、隠れ蓑としてもハイルクリットの名を売るにも好都合だな。
「二代目のメイド長ってスゲーな。なに者なの?」
なんか顔が思い浮かばんが、公爵どのに交渉して要求を飲ませるとかなかなかできねーことだぞ。
オレだってたくさんの益を与えて、その見返りとして要求しているのに。二代目さんはなんてネゴシエーターよ?
「……なんと言いましょうか、シフはつかみどころのない子ですね。ただ、ゼルフィング家のメイドとボーイが纏まっているのはシフの働きが大きいです。それと、ベー様の要求に即応できるのは完全にシフの力です」
そ、そうなの? それは感謝感激雨霰です。ってか、うちってボーイまでいたのね。なにも知らない雇い主でごめんなさい。
「今度、メイドさんやボーイさんの慰労会でもやろうか。特別手当てもつけてさ」
特に二代目メイド長さんには感謝を形にして示そう。これまでも、これからも、助けていただくために……。
「はい。そうしていただければ幸いです」
こちらで年末とか新年とかはないが、うちではやっていて、五日くらいは家族で祝うようにしている。
そのときに長期休暇にして、ヴィアンサプレシア号を開放して家族と過ごさせてやれば喜ばれんだろうよ。
「んじゃ、ヴィアンサプレシア号に泊まれるように調整してくれや」
レヴィウブから帝都までは近いし、シュンパネを使えば一瞬だ。ミタさんならなんとかしてくれんだろう。
「畏まりました」
あなたにも感謝を形で示させていただきます。なので、ガンバってくださいませ。
去っていくミタさんを感謝の敬礼で見送り、消えたら買い物の続きを開始した。
あ、赤毛のねーちゃん。どーこー!?
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