第1148話 初対面
「とりあえず、買い物を続けるか」
考えてもしょうがないときは考えないのが一番。成るように成れと気持ちを切り換えるのだ。
「……ベー……」
頭の上から動かなくなったメルヘンが不安そうにオレの名を呼ぶ。
「気に病むなって言ったろ。断る力も、この状況を利用する知恵も、家族を守る手段もオレにはある。余程の人外でもなけりゃ敗けはしねーよ」
カイナに勝てる相手がいるならジャンピング土下座して足を舐めさせてもらうけど。
「それに、欲しいと言うなら売られるのも手だぜ。ぼったくり価格で売って、飽きたら逃げればイイんだからな」
プリッつあんには自分の能力とオレの能力、そして、転移バッチや無限鞄がある。これだけの力を抑えるのは至難だ。厳重警戒の城からだって抜け出せるさ。
……あと、オレの特別な結界も施してあるしな。ククッ……。
「貴族の生活を見て来るのもおもしろいと思うぜ。自由にできる立場なんだからさ」
オレも儲かり、プリッつあんも楽しめて、相手も喜ぶ。なんてウィンウィンな関係なんでしょう。
「窮屈なところ嫌い。自由なのが好き」
まあ、フリーダムメルヘン。鳥籠におさまる柄じゃねーか。
「ああ。自由にしたらイイさ」
自由こそ我らの生きる道。邪魔する者は排除するのみ。慈悲はなし、だ。
なので買い物再開。遠慮なく買い占めます。
あれやこれやと無限鞄に詰め込む装置と化していると、パタパタと駆ける足音が聞こえて来た。
「ベー様。双子のお嬢様方がこちらに駆けて来ますよ」
レイコさんの声に顔を上げると、双子の女の子が鉢植えの陰からこちらを見ていた。その後ろには先ほどの侍女風のおねーさん。
金子ちゃんと青子ちゃんの衣装からして中央貴族。それも高位だろう。金子ちゃんの髪から侯爵以上。だが、皇族関係者が来ていると言うことは、高確率で皇族関係者なのだろう。
……まったく、オレの人生厄介事に事欠かんよ……。
「プリッつあん」
買い物をしているメルヘンを呼ぶ。
「なーに?」
いつもの調子に戻ったようで、すぐにこちらへと飛んで来た。
「あの金子ちゃんと青子ちゃんと仲良くしてやんな」
そのコミュニケーション能力を十全に発揮して、あの双子を魅了して来なさい。
「いいの?」
「好きにやれ」
あとのことはオレに任せろ。十全に相手してやるからよ。
「わかった。お友達になって来る」
ほんと、君は物怖じしないよね。羨ましいよ。
飛んでいったプリッつあんは、自己紹介をして、二事三事話すと双子ちゃんと仲良くなった。
え、それで!? それで仲良くなれんの?! 意味わかんねー! あのメルヘン、魅了の魔法とか持ってんじゃねーだろうな?!
なんかこれからの付き合いを考える必要がありそうだが、それはあとだ。
「ミタさん。お玉さん、なんか言ってたか?」
帰って来たミタさんに尋ねた。
「好きにしなさい、だそうです」
話のわかる幽霊で助かります。
「ミタさん。買い物の続きを頼むわ。オレは好きにやってくるからよ」
「畏まりました。ご武運を」
うん。戦いはしないから。オレ、平和を愛する村人だから。
ため息一つ吐き、オープンテラス的なところへと向かい、真ん中のテーブルに座る。
「マイロード。ファソラシド隊、いろは隊をレヴィウブに配置しました」
好きにしろとは言ったけど、そう剥き出しに臨戦態勢にならなくてもイイんだからね。平和的解決が一番なんだから。
メイド型になったドレミにコーヒーを淹れてもらい、ゆったりまったり心を落ち着かせる。
しばらくして心が落ち着いた頃、三十半ばの金髪紳士が現れた。
「相席、よろしいかな?」
「ええ。よろこんで」
金髪紳士の笑顔に、こちらも笑顔で答えた。
現皇帝の弟で帝国の影の皇帝、シャオロタ・オルズ・なんとかかんとかとの初対面だった。
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