第1134話 造船所
パンパカパーン。
「ゼルフィング造船レヴィウブ支部、ここに完成~!」
くす玉(割り玉)のヒモを引っ張った。
割れた玉から紙吹雪や風船、そして垂れ幕が落ちて来る。うん、めでたいね~。
「なにこれ?」
そんな冷めた問いなどノーサンキュー。喜ばしい出来事なんだから空気を読んで拍手でもしなさいよ。
「べーのやることって謎よね」
謎の生命体にそんなこと言われた!? つーか、久しぶりだね、なにしてたのよ?
「レヴィウブで遊んでた」
あ、そうですか。オレはアブリクトやハイルクリット(ミタパパがいる島の名です)、このレヴィウブの港で造船所造ってました。
その話は? なんて聞かないでください。作業してた。それに尽きるからな。
「ってか、人多くね?」
完成したらお祝いしようとは言ったし、ミタさんに関係者を集めてとも言っていた。市長代理殿や関係者も慰安を兼ねて呼んでいる。まあ、多くても百人くらいかな? と思ってたんだが、なぜか埋め尽くすほどの人が集まっていた。
「帝国のヤツらがいるが、なぜよ?」
せっかくだから伯爵さんたちにも招待状は送り、知り合いがいたら誘ってどうぞとも書いた(ミタさんがね)。だからいるのは不思議じゃねーんだが、それにしたって多すぎだろう。あと、なにやら若いお嬢さんの一団がいるのはなんでや?
「舞踏会でもやろうってのか?」
ドレスがとってもお綺麗ね~、とか、ここが室内ならそんなことも言えるのだろうが、この冬空の下では「なにしに来たの?」と問いたくなるわ。
まあ、ヘキサゴン結界をドーム状に創り、温度を春先くらいにしてるあるからやろうと思えばやれるだろうが、下は石畳で凹凸がある。これなら舞踏会より武道会にしたほうがイイと思うぜ。いや、だからってやったりはしないけどさ。
「やるわけないでしょう、こんなところで。でも、踊れる空間があればいいかもしれないわね。べー、ちょっとあそこら辺を平らにしてよ」
うん。これ造船所完成のお祝いな。とか言っても聞きやしないだろうから、テニスコートくらいの面積を土魔法で平らにしてやった。
「音楽とかどうすんのよ?」
「マダムに用意してもらうわ。あ、マダム。音楽が欲しいんだけど」
と、プリッつあんが飛んでいくほうを見れば、マダムシャーリーがご婦人だちと楽しそうにおしゃべりしていた。あんたなにしてんのよ!?
「なにか楽しいことがあるとプリッシュに誘われましてね」
「べーがなにをしたいかわからないけど、多いほうがいいでしょう? 皆もなにか刺激を求めてたしね」
同じ席につくご婦人たちが上品っぽく同意している。いや、造船所の完成披露と慰労で刺激をと言われても困るわ。旨い料理と旨い酒で楽しんでくれってだけなんだからよ。
「だったらプリッシュ号改でも出して遊覧飛行でもしたらイイだろう。雲の上までいって来いや」
川や海での遊覧はあるだろうが、空の遊覧はそういないはず。なら、飛ぶだけでも喜ばれんだろう。
「そうね。乗せてあげるって約束もしたしね」
誰とだよ? 君のコミュニケーション能力が怖いわ。
「他にもなにかない? 小さい子が喜びそうなの」
本当に君のコミュニケーション能力ってどうなってんのよ? ここ、貴族や大商人とかしかいないのに、どう接すれば仲良くなるんだよ。謎でしょうがねーわ!
「レヴィウブには遊園施設とかねーのかよ?」
ショッピングモール的なところならあんだろう。家族連れで来るんだからよ。
「劇場ならあるんですが、小さな子が楽しめそうなものはないかしらね。もともと大人の社交場としてできたところなので」
まあ、この時代で子どもを遊ばせる場所なんてないか。元々娯楽の少ない時代でもあるしな。
「なら、エア遊具でイイか」
ショッピングモールと言ったらエア遊具だろう。いや、その発想はどうかと自分でも思うが、ショッピングモール自体そんなにいってねーし、たんなるイメージでしかねー。まっ、なんでもイイわ。
「カイナーズホームで買ってくんのも手間だし、結界でイイか」
エア遊具って言うか、無重力結界なら昔トータのために創ったことがある。あとは、ボールプールとか創れば小さい子どもには充分だろう。
マダムシャーリーの許可を得てエア──ではなく結界遊具を創り出す。
「ミタさん。大丈夫だとは思うが、誰か監視役置いてくれや。あと、小さなお子様限定な。飛んだり跳ねたりするからよ」
「確かめてからでよろしいですか? なにをするものかわからないので」
それもそうか。遊具自体ねー時代で無重力とか言われてもわかんねーか。
「任せる」
オレはシュードゥ族や市長代理殿の相手をしなくちゃならんのだからな。
「わたしもー」
なぜプリッつあんもミタさんに続いて結界遊具(ちなみにくまのアレさん的な感じです)へと入っていった。
自由に飛べるあなたが楽しめるとは思えねーが、まあ、歩けるオレらも車とか乗って楽しめるんだから無重力も楽しめんだろう。知らんけど。
「ってか、港を占拠してるが、大丈夫なのかい?」
なにか入りたそうなマダムシャーリーに尋ねる。
「構いませんよ。船員もただ待つだけでは可哀想ですから」
マダムシャーリーの視線を追うと、端に露店(うちが出してるようだ)が並び、船員や作業員らしき連中が楽しそうに飲み食いしていた。
「まあ、マダムシャーリーがイイと言うなら好きにさせてもらうよ」
これから利用させてもらう身。いろいろ還元しておくのもイイだろう。
「マダムシャーリーも楽しんでくれや」
「ええ。そうさせてもらいます。楽しいものがたくさんあるので」
なんかメイドさんたちがいろいろ出してるようだ。小遣い稼ぎかな?
じゃあとマダムシャーリーと別れ、造船所の近くで居辛そうにしているシュードゥ族や市長代理殿のところへと向かった。
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