第1125話 信じてる 

 ゼロワン改+キャンピングカーに驚く両伯爵だが、「公爵様の道楽品ですよ」と言ったらあっさりと納得されてしまった。


 それで理解されるあんたの生き様に乾杯です!


 と、心の中でコーヒーカップを掲げ、どこかにいる公爵どのに敬意の念を飛ばした。


「ドレミ。夫人を中へ。伯爵。夫人の付き添いに二人ほど乗せてください。もう一人入れますが、それは魔道具なのでドレミをつかせます。狭くて申し訳ありませんが伯爵とお子さまは前へお願いします」


 ぱっぱと指示を出して出発再開。レヴィウブへと向かう。ちなみに伯爵は助手席。後部座席には十三歳くらいのと八歳くらいの息子が乗りました。


「わたしが先導します。ついて来てください」


 守備隊の隊長さんが横に現れ、そんなことを言ってゼロワン改の前に出た。分かれ道でもあんのか?


「ヴィベルファクフィニー殿はクレムレットに来たのではなかったのか?」


 オレが首を傾げたのを見たのか、伯爵がそんなことを尋ねて来た。クレムレット? なんぞや?


「クレムレットとはレヴィウブにある長期滞在都市だ。主に冬季間休みをもらう貴族が訪れる」


「ちなみに、伯爵のお仕事を聞いてもよろしいでしょうか? 不都合があれば流してもらっても構いませんが」


「いや、不都合はない。わたしとバインエル伯爵は軍人だ」


 軍人? とてもそうは見えんが……?


 両伯爵とも中肉中背で剣や槍を使う手ではねーし、戦いに身を置いてる気配でもねー。裏方か?


「ふふ。わたしらの敵は書類さ」


 つまり、後方勤務ってヤツか。そりゃ事務がいなけりゃ軍は動かせんわな。


「でも、そんな方が長期休暇、ですか? 伯爵の位ならかなり上の方だと思うのですが」


 帝国軍の階級がどんなもんか知らんが、前世で言うなら左官級のはず。会社で言うなら部長くらい。そんな地位にいる者が抜けたりしたら回らないんじゃねーの?


「わたしたちが配属された場所は雪が多く、魔獣もいなくなるので一斉に後方へと下がり、順番で休暇に入るのだ」


 ほ~ん。そう言うところもあるんだ。やっぱ帝国は広いわ。


「レヴィウブ、ではなく、長期滞在都市には何日ほど滞在で? わたしは今日帰りますが」


「十日から十二日と言うところだな。領地も仕事場も遠いのでな」


「領地持ちでしたか。わたしのいとこも領主として働いてますが、兼務は大変なのでは?」


 いとことはドレミの分離体でヴィ・ベルくんのことだよ。オ──いや、シャンリアル領のために誠意奮闘中さ!


「領地は引退した父が見ている。大変なのは軍を辞めてからだろう。領地経営が苦手で軍に入ったのでな」


 まさか十年近く書類と戦おうとは思わなかったと苦笑していた。


「ふふ。領地経営も書類との戦いと聞きますから、百戦錬磨の伯爵なら大丈夫でしょう。できないことはできる者に任せ、当主は采配に気を配ればよいと、公爵様も言ってましたからね」


 でなければ公爵が飛空船に乗って冒険などできねー。まあ、それを嫁にやらせるってところがさらにスゲーよ。


「あの公爵様の言葉なら見習わしてもらおう」


「まあ、愛のほうは真似しないほうがよろしいかと思いますよ。家庭の平和のために、ね」


 一般人があれを真似したら破滅型しかねー。真似しろとは口が裂けても言えねーよ。


「……アハハ、そ、そうだな……」


 なにやら困ったような笑いをする伯爵どの。なんか不味いこと言いましたか?


「と、ときに、先ほど頭にいた妖精はいったい……」


 妖精? 頭にいた? と咄嗟に頭の上に手を伸ばすと、頭の住人さんがいらっしゃりません。いつの間に!?


「彼女は羽妖精はプリッつあ──いえ、プリッシュ。わたしの家族ですよ」


 共存体同士でぇ~す! と言ってもわからんだろうし、オレの頭の上に住んだときから家族として受け入れている。間違ったことは言ってねーと自信を持って言えるぜ。


 ……恥ずかしいから本人の前では言わんがな……。


「ゼルフィング家は他種族との交流は富を生むので進んで行います。最近では人魚とも仲良くなり、三国伯爵の地位もいただきました」


 フフと笑ってみせる。


 それをどう捉えるかは伯爵次第。少なくとも興味を抱いてくれたら儲けもの。人脈作りはコツコツと。誰がどこで繋がってるかわからねーのなら仲良くなれる者から仲良くなれ、だ。


「そうそう。レヴィウブにわたしの店もありますので、よかったらご家族でお越しください。珍しいものがたくさんありますよ」


 それと店の宣伝も。ってか、やってるよね? 


 そのあとのことは聞いてねーが、ミタさんなら大丈夫。と信じてレッツらゴー! だ。

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