第1020話 乗船

 ジャンケン大会、昼になっても終わらず。


 まあ、そんな予感がしたのでのんびり工作して待つことにした。


「ベー様。食事はどうなさいます?」


 同じテーブルで編み物するミタさんが尋ねて来た。


 メイドが主と同じ席につくのはいただけませんとか言って来たが、背後に黙って立たれるのも邪魔クセーと座らしたら、なぜか編み物を始めたのだ。


 ……つーか、君は全自動編み機か? 大量生産しすぎだわ……。


「ここで食うよ」


「わたしも」


 ヘイ、キャプテンプリッシュ。あそこで白熱してる者たちは、君の船に乗るためにジャンケンしているんだぜ。その君が優雅に読書(いつの間に文字とか覚えた?)しててイイんかい?


 まあ、これがリアルメルヘン。ティンカーベルさんと比べるほうが間違ってるぜ。


「では、すぐに用意しますね」


 山積みになった編み物を自分の無限鞄に仕舞うミタさん。


 無人島に一つだけ持ってっていいって言われたらミタさんを選ぶかも。あ、ドレミも捨てがたい。もうドレミベッドじゃないと寝られないし。プリッつあん? ああ、釣りするときの疑似餌にイイかもね。


「昨日のけんちん汁がありますが、どうします?」


「食べる」


「わたしも」


 あの嫁さんが作ったけんちん汁は毎日食っても飽きないぜ。あ、でも、タマネギと豚肉の味噌汁も飲みたいかも。芋煮汁も捨てがたいな。


 なんてことを考えながらミタさんが出してくれたオムライス(なぜに?)とけんちん汁をいただいた。


「ねぇ、ミタレッティー。今の卵とケチャップを使ったのなんて言うの? スゴく美味しかったんだけど」


 なにやらメルヘンのお口に合ったのか、興奮気味にミタさんに尋ねてます。


「オムライスと言ってカイナーズホームの社員食堂で作ってもらったものですよ。気に入りましたか?」


「うん! スッゴく気に入ったわ! 夜も出して!」


 オレに異議なし。あと、小さなグラタンがあると嬉しいです。


 食後のコーヒーを頼み、まだジャンケン大会をしている紳士淑女どもに目を向けた。


「この分じゃ今日は終わらんかな?」


 あそこまで白熱できる理由がよーわからん。


 急ぎじゃないとは言え、いつまでもジャンケン大会に付き合ってる気分ではねー。つーか、見てても楽しくねーよ。


「今何人なんだ?」


 ってか、造船所で働いているヤツ結構いるんだな。どこで仕事してんのよ?


「やっと半分になったようですね」


 なにを持って半分と言うのかは知らんが、ミタさんがそう言うならそうなのだろう。で、半分って何人よ?


「七十人ってところでしょうか? あいこが連発して長引いているようです」


 本当に今日いっぱいかかりそうな雰囲気だな。


「もうメンドクセーから六十人になったら締め切れ。半分はプリッシュ号に。残り半分はシュンパネでバイブラストにいかせろ。まずは水輝館にいくからよ」


 さすがに領都に連れていくわけにもいかんしな。


「畏まりました。そのように整えます」


 ミタさんが右手を掲げると、どこからからともなくメイドさんが数人出て来た。なによ!?


「ナーリルは水輝館へ。タリルはフミとともに六十名を分けなさい」


「「畏まりました」」


 優雅に一礼し、シュバッと消えるメイドさんたち。ほんと、誰がどう教育したらこんなになるんだろうな? 怖くて訊けねーよ。


 ジャンケン大会へと目を向けると、先ほどの白熱はなくなり、まるで紅白戦が行われたかのように歓喜する者らと落ち込むヤツらに分かれた。


 ……そこまでのことか? 意味わからんわ……。


 でもまあ、勝敗がついたのならもうすぐだろうと立ち上がり、プリッシュ号へと向かうことにする。


 また、どこからか現れたメイドさんがうずくまって悲しむ敗者を排除しながらプリッシュ号までの道を作ってくれる。あんがとさん。


「プリッつあん。プリッシュ号を大きくしろ。伸縮トンネルを設置するからよ」


「アイアイサー」


 敬礼するキャプテンプリッシュ。


 いや、それは船長じゃなく船員が使うものだと思うが、まあ、気に入ってんなら好きにしなさい。どうせ知ってる者なんてタケルくらいだろうからな。


 自分サイズにプリッシュ号を大きくし、プリッシュ号へと乗り込んだ。


 乗船口に伸縮トンネルを創り、オレらもプリッシュ号へと乗船させてもらう。


「ようこそプリッシュ号へ」


 敬礼で出迎えるキャプテンプリッシュ。君も形から入るタイプかい?


 なんかゴッコ遊びをしている気にならないでもないが、その気になっているプリッつあんに水をさすのもワリーと、敬礼で応えてやった。

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