第1010話 妹のお願い

「あ、聖銀だ。わぁーい!」


 ………………。


 …………。


 ……。


 じゃねーよ! なんだよ聖銀って? なんで金と一緒に出て来んだよ! おかしいだろうっ! 地質学者がブチ切れんぞ!


 半島の下を掘り進めること四メートル。出て来た金は百キロ近く。聖銀に至っては三百キロ近く。鉱脈ってレベルじゃねーわ! ここに塊を埋めましたってレベルだよ!


「ここを創ったヤツ、バカだろう」


 いや、バカだとはとっくの昔に確信してだが、ここまでバカとは思わなかったよ! 世界が大混乱するわ!


「……とりあえず、必要な分はもらって、あとは埋めなおしておこう……」


 カイナーズホームに入金しないといかんし、使える金も補充しておきたい。バカに感謝して、ありがたく使わせていた抱きます。


 百キロ近い金を二十キロくらいの棒にしてミタさんに預ける。


「ミタさん。カイナーズホームで換金してくれ。あと、このことは秘密だぞ」


 秘密は守られるだろうが、わざわざ広げることもねー。オレとミタさんが知ってればイイことだ。


「はい、わかりました」


 聖銀もと、棒化しようと試みるが、以前と同じく……ではねーが、やはり土魔法の効きが悪い。ほんと、謎の金属だわ。


 それでも土魔法のレベルが上がってるのか、三十分で棒状にできた。


「公爵どのに売るか」


 聖銀は常に不足していて、貴族や冒険者に人気がある。前に会長さんに頼んだ聖銀の剣と槍はS級の冒険者とどっかの貴族がイイ値で買ったそうだ。


 ……まあ、その売上はゼルフィング商会に流れていきましたけどね……。


 聖銀を無限鞄へとしまう。


「ここは、倉庫にするか」


 なにを入れるかは姉御次第。イイように使ってくださんしぇ。


「戻るか」


「そうですね」


 もうこれと言ってすることもなし。コーヒーでも飲みながらプリッつあんが終わるのを待ちますか。


 裏庭に上がると、サプルとレディ・カレット、あと、見知らぬ女の子が四人いた。誰?


「友達だよ!」


 あ、うん。妹よ、それは見てわかる。仲よさげだし。オレはどこのお嬢さんたちかを知りたいんです。


 まあ、身なりからして貴族のご令嬢かイイところのお嬢さんって感じだがよ。


「わたしの姉妹と帝都の友達だよ」


 と、説明してくれるレディ・カレット。兄のオレが言うのもなんだが、よくサプルと友達やってるね。公爵どのの血がそうさせるのか?


「そうか。まあ、仲良くやってくれや」


 妹の友達の中に入る勇気もないので、女同士でやってください。お邪魔な野郎は席を外しますんで。


 と、去ろうとしたらサプルに腕をつかまれた。なんだい、いったい?


「あんちゃん。ヴィアンサプレシア号で帝都に行ってイイ?」


 ってなことをおっしゃるマイシスター。サプルつきのメイドさん。説明プリーズだよ。


「サプル様がヴィアンサプレシア号のお話をなさいまして、皆様方が乗ってみたいとのことです」


「帝都の姉妹や従姉妹にも見せたいの」


 なるほど。そう言うことね。


「まあ、それは構わんが、帝都に入る許可は取れてんのか? さすがに公爵の紋章をつけても入れてくれんだろう」


 規制もないオールフリーのここら辺とは違い、帝都の空はがんじがらめの規制で縛られていると聞く。そう簡単には入れないはずだ。


「そこは父様がなんとかしてくれるって」


 公爵どのが? なに考えてんだ?


「あんちゃん、ダメ……?」


 と妹に問われてダメと言うようでは兄失格。そして、できる兄に不可能はない。


「おう、いって来い」


「やったー!」


 喜び妹の頭を撫でてやる。うん、そんなに喜んでもらえるなら兄冥利に尽きるってもんだ。


「あ、そのヴィアンサプレシア号ってどこにいるの? クレインの湖にいなかったけど」


 物知りミタさん、どこですか?


「ヴィアンサプレシア号でしたら近海を航行中です。乗組員やメイドの訓練のために」


 さ、さようですか。言い出しっぺが放置とか、マジすんません。


「すぐに戻るよう連絡を入れます」


「ミタレッティーさん、すぐ出発できるの?」


 今すぐにでも出発したいマイシスターがミタさんにしがみつく。


「さすがに準備に一日は必要かと。その間、皆様方に歌姫の海を案内されてはいかがですか? 人魚を見るのも初めてでしょうし」


 よっ、説得上手。そのまま畳み込め!


「それに、帝都を訪れるなら服も用意しなくてはなりません。郷に入れば郷に従えと申されます。帝国の服を揃えなければ相手に失礼ですよ」


 この万能メイドの進化がハンパない。もうメイド国の女王になっちゃいなよ!


「ベー様。コーリン様かザニーノ様にご同行をお願いされてはどうでしょうか? さすがにゼルフィング家のメイドがお側に仕えるのは問題がありますので」


 確かに魔族を出すのは時期尚早。もっと友好を深めてからか。


「細かいことや調整はミタさんに任せる。必要なものはオレの名を使って用意してくれ。ドレミ。二隊ばかりサプルにつけてくれ。ちゃんと差は出せよ」


 同じ顔が揃ってたら不味いからな。


「畏まりました。ミファソ隊とラシド隊をつけます」


 まあ、これでサプルの世話は大丈夫だろう。


「ミタさん。わかってるな?」


「もちろんです」


 恭しく一礼するミタさん。


 優先されるはサプルの命。守るためなら帝国を敵にしても構わない。万が一の用意はしっかり頼むぜ。

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