第1008話 決定

 姉御はどこですか~?


 と、なんか村になった場所のメインストリートに立ち、辺りを見回した。


「つーか、水とかトイレとかどうしてんだ?」


 建物は立派だが、このブルー島とうに川なんてないし、排水口も見て取れない。かと言って、汚物の臭いはまったくしない。どうなってんの?


「水や食料は外から運んでます。トイレやお風呂は館を参考に魔道具を使用しております」


「クルフ族がやってんのかい?」


「はい。あと、魔道具開発部で造っております」


 カイナんとこは優秀のが揃ってんな。


「そんだけの力があんなら魔大陸で発展すりゃイイじゃねーか」


 わざわざこの大陸に来る必要なかったんじゃね?


「それはベー様が庇護してくださったからできた発展です。もちろん、カイナ様のお力もありますが、争いもなく、食べるものにも困らず、安全に眠れる地は魔大陸にありませんでした」


 別にオレが庇護しているつもりはないし、恵んでいるつもりはねー。だが、生きる環境は与えたつもりだ。その礼はありがたくもらうが、発展したのは生きようとしたヤツらの努力。オレの成果ではねーよ。


「しかし、こんなところに住んでどうすんだ? 外に出るのも大変だろう」


 一直線でも四キロはある。毎日となればオレでも萎えるぞ。


「そのうち電気自動車を走らせます」


「転移結界門のサイズじゃ入らんだろう」


 大きめには作ったが、車が入るサイズではねー。専用の転移結界門を設置するか?


「カイナーズホームには輸送部門があるので大丈夫ですよ。無限鞄ほどではありませんが、大型コンテナサイズの収納力を持つ魔道具がありますから」


 本当にカイナーズホームは優秀だよな。でも、オレが住むところまでは侵食して来ないでね。この世界のこの時代に生きてるのを忘れたくないからさ。


「ネラフィラ、海のほうにいったみたいよ」


 メルヘンアイは高性能。でも、強制的に頭を動かすのは止めてください。オレの首は動かないってわけじゃないんだからさ……。


 体は自由意思で動かし、姉御の後を追った。


 姉御が向かったのは海に突き出した半島で、先は崖となっているところのはずだ。


「クライマックスかな?」


「なんのよ?」


 犯人は姉御でオレが刑事。プリッつあんは、賑やか要員だな。


 なんて脳内サスペンス劇場を繰り広げながら進むと、途中で姉御に追いついた。


「随分とゆっくり歩いてんだな? なんか珍しいものでも見えんのかい?」


 景色はイイが、そんな楽しむほど変化に富んでいるわけじゃない。海と空。センチメンタルになる風情でもねーだろう。


「君と違ってわたしの目は普通にできてるの」


 失敬な。オレの目だって普通にできてますー!


「先にいっても海しかねーよ」


「その海を見に向かってるの」


「乙女だな姉御は」


 もうちょっとバイオレンスを控えてもらえると助かります。あなたの殺気、軽く人を殺せるレベルなんで。


「ネラフィラ、可愛いよね」


「……あなたたちは……」


 殴るものがなく、頭にプリッつあんがいるので拳をプルプルさせるだけ。さすがオレのイージス。オレの頭は君に任せた。でも、暴走してオレの首を痛めちゃダメよ。


「それより、喫茶店の場所は決めたのかい?」


「いくつか候補は決めたけど、この先を見てから決めるわ」


 なにか遠いところを見ながら岬に向かって歩き出した。


 まあ、なにか思うところがあるのだろうと、なにも声をかけず姉御の後に続いた。


 半島と言っても二百メートルほどの小さいもの。すぐに到達してしまった。


 岬の先に立ち、彼方を見詰める姉御。過去に思いを馳せているのか、まったく動こうとしない。


 ブルー島とうの時刻は、まあ、お昼くらい。日が沈むまで好きにしたらイイさと、ミタさんにテーブルや椅子を出してもらい、マンダ○タイムと洒落込んだ。


 岬で飲むコーヒーも格別。もうここで喫茶店やりなよ。


 と、押しつけてもしょうがないので、佇む姉御を肴にコーヒーうめ~。でも、この気温ならアイスコーヒーがよかったかも。


「決めたわ!」


 と、なにかを決意した姉御。どうしたよ?


「ここで喫茶店をするわ」


「まあ、やるってんならオレは構わんけど、客が来る見込みは少ねーぜ」


 さっきのところと大して代わり映えしない風景だ。よほど茶が美味しくなければ来んだろうよ。


「構わないわ。どうせ趣味でやるんだから」


 姉御がそう言うなら好きにしな、だ。


「ミタさん。そう言うことだから頼むわ」


 オレもたまには来るところ。快適に頼んますわ。


「はい。最優先で行います」


 んじゃ、チャッチャとやりますかね!

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