第958話 貨物船

「疲れたから今日はこれにて終了。おやすみなさい」


 水羊羹食ったら眠くなった。やはり、疲労が溜まっているんだな。無理せず休もう。


 椅子からソファーへと移り、おやすみ三秒で夢の中。ZZZ……。


 ………………。


 …………。


 ……。


 ハイ、スッキリ爽快オレ起床!


「え? 夜?」


 部屋の中が真っ暗になってます。何時よ? と腕時計を見れば朝の四時過ぎ。目覚めるのが早すぎました。


 もう一度寝るかとソファーに倒れ込むが、熟睡したのかまったく眠れねー。


「ドレミ、いるか?」


 暗い上に擬態しているだろうから声をかけたのです。


「はい、ここに」


 と、下からドレミの声が──って、クッションになってたのか。道理で熟睡するはずだ。低反発マットも顔負けなくらい気持ちイイのだ。


「いろはは?」


「ここにおります」


 暗くてわからないが、すぐ近くから声がしたので一メートル以内にはいるようだ。まったく、レイコさんより気配のないヤツだよ。


 ……気配と存在感は違うんだなーと思う今日この頃。世の理不尽を感じるぜ……。


「薄明かりにして水をもらえるか? 冷たいやつ」


「畏まりました」


 と、すぐ横でいろはが発光した。


 ……見た目が西洋人形っぽいせいか、軽くホラーだな。いや、背後に正真正銘なホラーがいるからインパクトは劣るがよ……。


「明るさはこのくらいでよろしいでしょうか?」


 発光することには説明はなしですか。まあ、万能生命体に不可能はなし、ってことで飲み込んでおこう。うん。


「ああ、それでイイよ」


「水です」


 どこから出したのは謎だが、ありがたくコップを受け取り、一気に飲み干した。うん、旨い。


「箱庭の水か?」


「はい。マスターが気に入ったように見えましたので、ドレミが汲んで起きました」


 そりゃあんがとさんと、コップを返して空中を眺める。


「……益々人の域から外れていくよな、お前は……」


 あれやこれやを考えていたら、突然、横から声がした。


 え、なに? と目を向ければ公爵どのがいた。随分と早起きだこと。


「ベー様。九時は過ぎてますよ」


 と、ミタさんが教えてくれた。うおっ、いたのね!?


「九時過ぎ?」


 周りに目を向けると、窓から日差しが入り、沢山の人が部屋の中にいた。


「お前の集中力、どんだけだよ?」


 自分でもどんだけかわからん。自分の中で一分も過ぎねーからな。


「なに作ってんだ?」


 公爵どのの視線を追うと、目の前に結界工房に特殊な飛空船が浮かんでいた。


 ……あ、そう言や、貨物船のことを考えてたんだっけ……。


「まさか作っているとは我ながらびっくりだわ」


 本当にオレの集中力どんだけだよ!?


「ベー、たまにやってるわよ」


 プリッつあんからのまさかの告白。オレ、なんかヤベー病気にかかってんじゃねーよね!?


「こいつはなんなんだ? 飛空船にしては変な形だし、安定性がないだろう、これ」


「貨物船だよ。この骨っぽいところにコンテナ、荷物を詰め込んだ箱を三つ並べるんだよ」


 簡単に言ったらトレーラーだな。


「ちゃんと浮くのか?」


「浮くよ。ただ、推進力は別に用意しなくちゃならんがな」


 飛空船の容量は海上船の半分。輸送には適してねーのだ。


「小人族の輸送船も見た目よりは積み込めねー。となると、積載と推進を別に考えたほうがイイ」


 まあ、頭のイイヤツならまた違う解決法が出せるんだろうが、凡人のオレにはこれが精一杯。他人の知恵を頼るしかねーんだよ。


「こう言うふうにな」


 前に作った小型の飛空船と積載船を連結させる。


「連結したことによる速度は落ちるし、安定性も劣るが、それを補う以上の輸送力と積み降ろしが楽になる」


 まあ、それ用に設備を整えなくちゃならんが、何事にも初期投資には金はかかるもの。なら、今後の利益を得られるように考えろ、だ。


「なんにせよ、素人の考えた案だ。気にすんな」


 これは、フミさんに考えてもらうか。ヤオヨロズ国が安定するまでは他から食糧を持って来ないと維持できねーんだからよ。


「いや、その案をくれ。バイブラストでも考えてみる」


「インフラ──それを運用しようとしたら港もそれ専用にしなくちゃならん。基礎設備だけでも国家予算級の金がかかるぞ」


「だが、お前の中では必要なことなんだろう?」


「まーな。自給率の少ないところは、外に頼らざるを得ないし、上がったら上がったで外に出さなくちゃならない。輸送は一緒に考えないとダメなんだよ」


 このファンタジーな世界で輸送は命懸け。だからと言って止めたら国は存続できない。疎かにしてはいけないものだ。


「なら、やらない選択はない。まるで未来視があるかと思うくらい先を言い当てるからな、お前は」


 それは前世の記憶があるから。歴史を知っているからだ。とは言えないので苦笑で返した。


「やるんなら勝手にやりな。国家事業は上がやる気になれば早くできるからな」


 諸々の問題も一緒に出て来るが、それは公爵どのの誠意努力と管理能力次第。オレが口出すことじゃねー。


「やるよ。今後の足しにしてくれ」


 結界工房を解き、飛空船と連結した貨物船を公爵どのにくれてやった。


「ミタさん。腹減ったから朝食にしてくれ」


 集中力が解けたら腹の虫が目覚めてしまった。今なら丼飯、二杯はイケるぜ!


「はい、すぐに用意しますね」


 あ、その前に顔を洗って来るからそれに合わしてくださいな、と洗面所へと向かった。

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