第904話 びーくわいえっと!
猫にそれほど興味がねーので何種(に近い)かは知らんが、毛の色は茶色に黒、しっぽが白と言う変わった色合いだった。
ドレミに驚く……茶猫は、妹の膝から飛び降りた。
「しゃ、しゃべれるか!? おれはたつ──じゃなくて、マーローって言うんだ!」
勢いよくドレミにしゃべる茶猫。ほんと、しぐさが人間っぽいこと。
「ドレミ。自己紹介してやれ」
声を飛ばして指示を出した。
「え? な、なんだ? 誰だ、今の声は!?」
後ろ足で立ちながら辺りを見回している。ブーツを履かしたくなるな。
「初めまして。わたしは、ドレミと申します。残念ながらわたしはスライムで、猫に擬態しております」
「……ス、スライム? まさか……」
まあ、納得しろと言うほうが悪いわな。
「証拠を見せてやれ」
黒猫からスライムへとトランスフォーム。あのポヨポヨ感は神である。
「……スライムだ……」
肉球でドレミを触る茶猫。なんつーか、コミカルな絵だよな。いや、あの茶猫がコミカルなのか?
「ドレミ。面倒だからメイド型になれ。あと、興味本意で声をかけたまでだから、迷惑ならこのまま去るよ」
おもしろいもの見れたしな、オレはそれで満足さ。
「いや、迷惑なんかじゃない。もし、あんたがおれに興味があるなら助けてくれ! こいつらを救ってくれ! 頼む!」
器用に土下座をする茶猫。お前の骨格、どうなってんのよ?
「まあ、助けてくれと言うなら助けるのは構わんが、それをそいつらが望んでいるのか? 見たところ、その三人に笑顔を与えたのはお前だろう? 今、幸せなときを過ごしている者に急激な変化は不幸しか生まねーぞ」
あの三兄弟の中心人物はこの茶猫だ。こいつがいるから三兄弟は笑ってられる。救うならお前の手でやらなければ、本当に救われたことにはならねーぜ。
「……おれじゃ、こいつらを幸せにできないんだ……」
どんな物語があったか知らんが、価値観が逆転するほどのなにかがあったのだろう。そこから育んで来た三兄弟との絆は、本人が思う以上に強固なはずだ。
「……まあ、イイ。これもなにかの縁だ。お前が望む方向に行くよう助けてやるよ」
どうもオレは、三兄弟に弱いらしい。見捨てることができねーよ。
「……すまない……」
石畳に頭をついて感謝する茶猫。その感じからして若いな。タケルと同じかちょい上くらいかな?
「気にするな。オレの気分でやってるまでなんだからよ。それより、そのブラシを持っているところを見ると、清掃関係の仕事をしてるのか?」
煙突掃除用ではなく、床や壁を掃除する仕様に見えるが。
「下水道を掃除している」
「どこから金が出てんだ?」
子どもにやらせんなよ、とは思うが、仕事をさせる社会的仕組みがあることにびっくりだわ。意外と成熟してんな、バイブラストは。
「役所からさ。区間を受け持ち、一月単位で仕事を受けられるのさ。報酬はびっくりするくらい安いけどな……」
まあ、スラムの子どもを使ってんだから安く上げよとはするわな。
「それでもお前が見つけて来たんだろう。そいつらをなんとかしたくて」
オレの言葉に目を大きくして驚いた。お前、本当に猫か……?
「わかるくらいには人生経験はしているよ。見た目は──って、面と向かって話すか。ドレミ。そいつらを連れて来てくれ」
距離的に二十メートルも離れてねーが、話し難いわ。
ドレミに連れられて来た三兄弟は、不審そうに、警戒するようにオレらを見ている。
「オレはベー。外国人で、この領都には商売で来た。まあ、見た目はこれだが、ちょっとした商会を仕切っている」
「仕切ってるのはフィアラで、ベーは放り投げてるだけでしょう」
びーくわいえっと! 先生怒りますよ!
思わず中学校のときの英語の先生の口癖が出てしまったが、そう言いたくなる気持ちがファンタジーな世界に転生してわかりました。ロッテン先生とアダ名をつけてごめんなさい。
「まあ、変なガキだと思っておけばイイさ」
「実際、変だしね」
とりあえず、頭の上のメルヘンは遠くに飛ばしておく。先生、ブチ切れますよ!
……あ、先生の名誉のために言っておきますが、それは生徒たちの後付けですんであしからず……。
「おほん。これから時間はあるのか? 仕事ならまた今度にするが?」
オレの謎の行動にキョトンとする三兄弟ぷらす茶猫。気にしないで。
「……あ、いや、だ、大丈夫だ。仕事は終わったから……」
「なら、まずは風呂だな。ミタさん。城に戻るから連絡先頼む」
「はい。では、先に戻ります──」
転移バッチで戻ったミタさん。これだけ人の目があるのに、まったく気がつかれず転移するとか、メイド忍法かよ。
でも、村人忍法、ドロンのほうが優秀だけどな!
三兄弟+茶猫のキョトンなど眼中になし。村人忍法の優秀さに自画自賛するのが優先よ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます