第876話 前言撤回
「生き残ったことに、カンパーイ!」
誰一人死ぬことなく、ケガをすることもなく、生き抜いたことを賞して祝勝会をすることにした。
あ、魔大陸を生き抜いて来た暴虐さんと魔王ちゃんも賞しておきますか。おめでとー!
「……なにかが間違っているはずなんだけど、まっ、いっか」
なにか納得はいかないながらもお酒に丸め込められたメルヘンさんが一升瓶(自分の体格に合わせて小さくしてます)を抱えながら、野郎どもに混ざって祝杯をあげていた。
……あなた、なにもしてないよね……。
まあ、メルヘンに命を預けるとか、野郎どもの矜持が許さんだろうし、まっ、いっか。
「旨いな、このプロテインとやらは!」
祝勝会なんだからプロテインじゃなくてもイイだろう。とは思うが、暴虐さんが好んでいるならドンドン飲んだれ、だ。
「肉も食えよ。肉は筋肉になるんだからよ」
変な方向に行かれるのも申し訳ねーんで、バランスよい食事をするように誘導する。
「そうか。なら、食べよう」
なんかもうキャラが変わりまくってるな、暴虐さんよ!
なんて心の中で叫んではみるが、まあ、それが暴虐さんの本性だと理解しておこう。オレはどっちでも構わんしな。
「魔王ちゃんは相変わらず食うな」
タケルやモコモコガール(今はモコモコ感がなくなったけど、オレの中ではあの日のままで固定されてます)ほどではないが、手と口が止まらない。日頃、食べてないのか?
「いや、食べている。師匠が食うに困らないほど寄越してくれたからな」
オレ、そんなに入れたっけ? 必要最低限に押さえたつもりなんだが。
「ベーの感覚と一般の感覚を混同したらダメよ」
メルヘンに感覚の違いを指摘されるオレ。納得いかねー!
「師匠。補充を頼む。甘いものを多目で」
空になっただろう収納鞄を突き出す魔王ちゃん。ハングリー精神は捨てたと理解しておこう。
……まあ、もともと強かな性格してるから問題はあるまい……。
魔王ちゃんや暴虐さんの食事(?)を眺めていると、どこからかゴーと言う音が聞こえて来た。
「なんか以前聞いた音だな」
「この音、ファントムですね。サプル様でしょうか?」
音でわかるとか、この万能メイドはなにを目指してるんだろうな……。
「やはり、サプル様のようですね」
倍率のよさそうな双眼鏡を覗きながらそう口にした。
「サプル、まだ魔大陸にいたんだ。つーか、こっちに来ねーが、なにやってんだ?」
オレも倍率のよい結界双眼鏡を創り出し、オレンジ色のファントムを見る。ってか、他はいねーのか?
「……地上を見回しているようですね……」
地上を?
倍率を更に上げると、確かに大きく旋回しながら下を見るサプルが結界双眼鏡に映し出された。
「サプルと通信できる人?」
これだけ非常識な存在が揃ってんだ、誰か一人は……と思ったら、レイコさんを除く非常識どもが手を挙げました。
……あんたらいったいなんやねん……。
「……じゃあ、ミタさん。なにしてるか通信して」
比較的まともなミタさんにお願いした。
いつものスマッグではなく、イヤホンタイプのものを取り出して耳に装着した。諸君。ファンタジーってなんだろうとか思ったら負けだぜ。
「サプル様。ミタレッティーです。応答願います」
そんなセリフを何度か繰り返すと、サプルとの通信が繋がったようだ。不思議だね。
「ベー様。どうやらレグチャの小集団がこの近辺を徘徊しているようです」
「魔王ちゃんたちでも絶滅さられんかったか。まったく、生存力の強い蟲だぜ」
「レグチャの異常繁殖は魔王ですら嘆くと言われますから」
はた迷惑な蟲だな、ほんと。
「地道な駆除に勝る解決策はなし、か」
一つ一つ潰していくしかねーのなら、一つ一つガンバってもらいますか。ここに住む者たちに、ね。
とは言え、オレもレグチャがどんなものか学んでおくか。蟻だが蜘蛛だかわからん生き物。なにか有効利用ができるならそれに越したことはねーからな。
「ミタさん。サプルにレグチャを攻撃するように伝えてくれ。大雑把でイイからよ。取りこぼしはオレが狩るんでよ」
「ベー様? レグチャは単独でも脅威です。特に噴き出して来る酸は竜の鱗まで溶かします」
酸? って、そう言や最近、強酸を吐く生き物がいるとかレイコさんから聞いたな。なんだっけ?
「サソリよりレグチャの酸は強力です」
レイコさんに目で問うと、そう答えが返って来た。あ、サソリな。思い出した思い出した。
「サソリより強力なんだ」
それはつまり、美味しい獲物ってことじゃねーか。
「ミタさん。前言撤回。サプルにレグチャをこちらに追い詰めろと伝えてくれ」
「ベー様、いったいなにをなさるのですか?」
「レグチャを狩るさ」
ズボンのポケットから殺戮阿を抜いた。
ククッ。S級村人の狩りを見せてやるよ!
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