第870話 ヤマートナデーシコ

「野郎ども! 結婚したいかー!」


 ウオーーッ! と、野郎どもが熱く叫んだ。


 エルフは、性欲が少ないと言われるが、だからって女に興味がない訳ではない。恋愛感は人と変わらない。いや、プラトニックラブな種族だから愛は人より濃いかもしれんな。


「それが小麦色の肌をした女でもかー!」


「そんなもの関係ねー!」


「そうだ! 肌の色なんて気にもしねーわ!」


「小麦色万歳!」


 野郎どものボルテージは今にも爆発しそうなくらい勢いを増していた。


「……男って生き物は……」


 レディ・カレットは呆れ果ているが、これが男。真の男の姿である。


 で、なぜ野郎どもは興奮し、レディ・カレットは呆れ果ているかと言うと、オレがダークエルフの姿を結界で再現してみせたのだ。


 エルフとダークエルフの差は皆さまのご想像に任せるとして、根はダークエルフのほうがタイプなんだな。


「野郎ども。ちょっと集まれ。レディ・カレットとリュケルトは下がれ」


 文句を言うレディ・カレットを強制的に黙らせ、ドレミに押さえてもらう。リュケルトは自分で耳を塞いでろ。マル子に殺されたくなければな。


「……変なこと吹き込むなよ……」


「大丈夫だ。真実しか吹き込まねーよ」


 よし、野郎ども、オレの話を聞きやがれ!


 ゴニョゴニョゴニョ。


 あれがこれで、これがあれなわけですよ。わかった?


 ──ウオォォォォオォォッ!!


 鼓膜が破けんばかりの大歓声。気持ちはわかるがうっせーよ!


「ナデーシコ! ナデーシコ! ヤマート、ナデーシコ! おお、ナデーシコ!」


 なんて歌い出す野郎ども。よほど気に入ったようだ。ククッ。なによりなにより。


「……絶対、変なことを吹き込んだよな、お前……」


 ジト目のリュケルト。野郎がやっても可愛くねーんだよ。


「変なことではない。ダークエルフの性質を説いたまでだ」


 まあ、妄想三割。思い込み二割。残りが切望と言うものだが、まあ、ダークエルフの女はそれを百パーセント真実にするだろう。


 ……あー恐ろしや恐ろしや……。


「野郎ども、静まれ!」


 ヤマート、ナデーシコと騒ぐ野郎どもを一喝する。


「イイか、野郎ども。相手はヤマートナデーシコだ。だが、だからと言って、誰にでもそうなるわけじゃねー。惚れた男だからそうするんだ」


 そこは勘違いするなよ。勘違い男は一番嫌われるからな。


「イイ女はイイ男に惚れる。ここで問う。イイ男とはなんぞや?」


 その問いに、野郎どもが沈黙する。


 まあ、エルフなりのイイ男ってものはあるが、嫁取りに負けた野郎どもに、それを口にする自信はなかろうて。


「それは惚れた女を幸せにしてやることだ」


 反論も認める。異論も認める。否定するのも認める。だが、男なら惚れた女を幸せにできないようでは男失格だ。


 前世のオレにはできなかった。男失格なところか人間失格だった。そんなオレにイイ男を語る資格はない。だが、今生のオレはオレを幸せにするためにある。


 そのためなら他人を騙すことも厭わない。利用することも厭わない。嫌われるのも厭わない。幸せになるためならなんでもする。それが今生のオレだ。


「野郎ども。お前たちに、その覚悟はあるか? 女を愛する度胸はあるか? 育った環境も違う。肌の色も違う。それでも嫁が欲しいと願うか?」


 さあ、どうだ。野郎ども。その熱き心をオレに見せてみろ。


「おれはそれでも嫁が欲しい!」


「おれもだ!」


「一人で何百年も生きたくない!」


 どいつもこいつも熱い野郎どもだ。だが、その熱さはキライじゃねー。


「そうだ。男して産まれたのなら最高の愛を見せてみろ! その一生、素晴らしいものとしてみせろ!」


 エルフの一生は長いが、過ぎればあっと言う間だ。死は回避できない。


 生きて生きて生き抜いて、死ぬ間際、イイ人生だったと口にしてみろ。愛した者へ笑顔を見せてみろ。


「当たり前だ!」


「やってやるさ!」


「男を見せてやるぜ!」


 そんな熱い野郎どもに満足げに頷いた。


 クックックッ。ああ、オレの幸せのためにもテメーらには嫌でも幸せになってもらうぜ!

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