第862話 エルフの里へ

「ときは秋、日は朝、遠き山々の白き雪、囀る小鳥の賑やかよ、天に神はおりて、すべて世は事もなし」


 爽やかな朝に、益もないことを口走ってしまった。


「なにそれ? 歌?」


「なんでもないよ」


 プリッつあんの疑問を軽く流して、バルコニーでモーニングなコーヒーをいただいた。


 平和が一番。マンダ〇二番。いつまでどこでもコーヒー最高~。


「あ、カステラ食いたくなった」


「え、カステラですか? どんなものですか?」


 なんかミタさんが食いついてきた。


「お菓子だよ。たぶん、カイナーズホームで売ってんじゃねーかな?」


 無駄になんでも揃ってるところだからな。


「買って来ましょうか?」


 なにやら鼻息荒いミタさん。なんなのよ、いったい?


「あ、ああ。なら、たくさん買って来てくれや。リュケルトのところに持っていきたいからよ」


「リュケルト、さんですか?」


 ん? 会ったことなかったっけ? 馬に乗って騒いでたエルフだよ。


「あ、あの方ですか。名前まで覚えてませんでした」


 ミタさんにしては珍しいな。なんかリュケルトとあったのか?


「ベー様の交友関係は広すぎて名前が覚えられないだけです。リュケルト様ですね。覚えました」


 名前、すぐ覚えられて羨ましいね。


「では、すぐに買って来ますね──」


 転移バッチを発動してカイナーズホームへと飛んで行った。


「ベ、ベー、今のなにっ!?」


「いつでもどこでも転移できる魔道具だよ」


 詳しいことはプリッつあんに訊いて。って、あれ? プリッつあんがいねーぞ。今の今までいたよね!?


「プリッシュ様でしたらフィアラ様より通信が入り、ゼルフィングの館に戻りました。調整がどうこう言ってました」


 と、ドレミが教えてくれた。


 まあ、オシャレ統括本部長。いろいろ仕事があるんだろう。がんばっておくんなまし。


 レディ・カレットとおしゃべり(と言う名のマシンガントーク)をしながら待つこと一時間。ミタさん、早く帰って来てぇー!


「──お待たせしました」


 心の叫びが届いたのか、ミタさんが現れてくれた。ハイ、心待ちにしてました!


「カネイドウのカステラとマンガンドウのカステラです。あと、ベビーカステラもあったので買って来ました」


 デデンとテーブルにカステラの箱を積み重ねるミタさん。買い占めてきたのかい?


「カステラ、美味しいですよね!」


「あ、うん。そうだね」


 前から思ってたけど、ミタさんって大の甘党なのかな?


 カネイドウのカステラを切ってもらい、手づかみでパクリ。うん。旨い。


「なにこれ!? 美味しい!」


 レディ・カレットもご満足のようでなによりです。


「ミタさん。牛乳ちょうだい」


「はい。どうぞ」


 やっぱ、カステラのお供は牛乳だよな。あーうめー!


 久しぶりのカステラを堪能し、リュケルトに持っていく分を無限鞄に仕舞い込んで行く。


「レディ・カレットも何個か持ってってイイぞ」


「いいの!? ありがとう!」


 遠慮なく収納鞄に詰め込むレディ・カレット。その豪快さ、気に入ったぜ。


 と言うか、一向に減らねーな! マジで買い占めて来たのかよ!


「あはは。美味しかったのでつい……」


 明後日を見ながら乾いた笑みを見せるミタさん。なんでもイイよ、もう……。


 二十分かかって、やっとのことで無限鞄に仕舞い込めた。


「そう言や、公爵どのはどうしたい?」


 今朝はまだ見てねーな。寝坊か?


「父様なら帝都にいったわ。人魚の対策をするとかで」


 そりゃご苦労さま。なるようになると言えない立場は大変だな。


「バイブラスト、大丈夫だよね?」


「なるようになる。心配すんな」


 不安そうなレディ・カレットに笑ってみせる。オレは友達を見捨てたりしないよ。


「うん!」


 その信頼は重いが、まあ、オレの人生、なるようになるもの。ならないときは、なんとかしろ、だ。


「さて。公爵どのがいねーのなら合コンの話を進めるか」


 これもなるようになった結果。また、なるようになれと、行動するまでだ。


「わたしもいってもいい?」


 この子も諦めないね。オレはいつもおもしろいことに出会ってないよ。この二日だって平和だったしよ。


「好きにしな」


 昔なら人など去れと言っていたエルフの里だが、今は交流が大事と学んだようで、オレかオレの知り合いなら受け入れるようにはなった。なんで問題なかろう。


「ミタさんは、残っててくれ。エルフの女を刺激したくねーからよ」


 この世界の女エルフは、気が強い上に保守的なのが多い。ダークエルフとの合コンなんて知られたらメンドクセーことになること必至だわ。


「ですが……」


「今回は諦めろ。男の話に女が入るな」


 その逆も然り。いや、入れと言われても全力で拒否しますがね!


「わたしは、いいの?」


「問題ない」


 なにがとは言えないが、あえて言うのなら年齢的に大丈夫とだけ言っておこう。問われても答えないのであしからず。


 いくメンバーは、オレ、ドレミ、いろは、そして、レディ・カレットの四人(?)だ。憑いてるレイコさんは姿を現さないでね。霊とか精霊を神格化する種族だから姿現すとメンドクセーからよ。


「たぶん、何日か泊まって来るかもしれんから、気長に待っててくれや」


 男たちと話し合わなくちゃならんからな。二日三日かかると見ていたほうがイイだろう。


「んじゃ、いって来るよ」


 転移バッチを発動。エルフの里へと転移した。

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