第850話 別荘

 ──道。


 言葉にすれば確かにバギーを走らせているところは道だろう。


 だが、道もいろいろだ。獣が踏み固めたところも道だし、石畳を敷いたところも同じ道。移動するためにできたもだ。


「ベー。遅いよ」


「しょうがねーだろう、道がワリーんだからよ」


 オレは凡人なんだよ、あんな天才どもと一緒にすんな!


 ……畜生め。これが馬だったら負けねーのによ……。


「あ、ベー。湖よ。きれぇ~」


 へ~どれどれとか見れるか。こっちは運転するのでいっぱいいっぱいだわ。よくこんな道を通って別荘とか造る気になったな。頭おかしいんじゃねーの。


「そんなに大変だったら道を均せばいいじゃない。魔大陸でやったみたいにさ」


 ………………。


 …………。


 ……。


 ポンと心の中で手を打った。


「そうだよ! なにやってんだオレは!」


 いや、バギーで平地を走るってどうなのよ? 意味ねーじゃんとか、オレの心よシャラップ! だ。初心者は快適を優先すんだよ!


 プリッつあんの提案を受け入れ、結界で均し、土魔法で固めていった。


「ミタさん! スピード上げてイイぜ!」


 三十メートル先を走るミタさんに、結界を使って声を飛ばした。


「では、少し上げます。速いときは言ってくださいね」


「あいよ」


 舗装道路並みに均してあるなら六十キロまでは無問題。道を均しながらだって大丈夫さ!


 ミタさんの心使いか、五十キロまでは上げず、こちらのペースをコントロールしながら三十メートルの距離を保っていた。


 カーブが多い道だが、四、五十キロなら周りに目を向けることはできると、視界に消えては現れる湖を入れた。


「確かにキレイだな」


 前世で観た(テレビでね)、カナダのような風景だった。


「湖になにか住んでるのかな?」


「でっかい魚が泳いでいるらしいぜ」


 釣りの文化がないのか、湖に出ることはなく、主に風景を楽しむために別荘を造ったと、以前聞いたことがある。


「魚、食べるの?」


「地元のヤツは小さい魚は食べるようなこと言ってたな」


 浅瀬で網を張って魚を採り、燻製とかにするらしい。ここは、冬が早くて雪が深いらしいから、だってよ。


 道を均しながら風景を楽しみ、バギーを走らせていると、今一瞬、建物が見えたような気がした。


「ベー様! そろそろ到着します!」


 どうやら見間違いではないようで、ミタさんが振り返って教えてくれた。


 道が大きくカーブして、少しいくと、高い門が見えた。


「魔物とか出るんだな」


 まあ、風景はよくても弱肉強食なファンタジーな世界。危険な生き物がいて当たり前。いないと思うほうがどうかしてるわ。


「人はいるのね」


 開け放たれた門扉には、武装した兵士が四人立っていた。


 どうぞとばかりに左右に分かれ、手にしていた槍先を反して地面に刺した。


「なんの意味かしら?」


「たぶん、歓迎の意味だろう。殺気とか感じんし」


 ミタさんが軽く一礼して通り過ぎたので、オレもそれに続いて門を潜った。


「ほぉ~」


 門を潜ると、なんとも立派な庭園が現れた。


「よく手入れされてんな。そんなに頻繁に来るところなのか?」


 維持するだけでも大変だろうに、よくこんなところに造ったもんだよ。


「ベー!」


 スピードを緩め、歩くくらいのスピードで庭園を見ていたら、公爵どのの声が響いた。


 見れば別荘の玄関前に公爵どのやレディ・カレットがこちらへと手を振っていた。あっちか。


 アプローチとか言ったっけ? 玄関まで続く道を進み、ミタさんのバギーの後ろにつけた。


「遅いぞ、ベー」


「公爵どの達が速いんだよ。案内するなら先にいくな」


「ちゃんと一本道だと言っただろうが」


 ったく、案内に不向きな男だよ。


「ここがそうなのかい?」


「ああ。この湖畔の別荘をベーにやる。好きに使え」


「……それはありがたいが、イイのか? なんか大事そうな場所のように見えるが?」


 なにか思い入れがなければこんなにキレイに維持はせんだろうが。


「おれの母が生前使っていたところだが、それほど思い入れはない。ただ、サーレナと出会った場所だから残してたまでだ」


 充分すぎるくらい思い入れのある場所だろうが。本当にイイのかよ? 第六夫人に恨まれたくねーぞ。


「維持するのに金がかかるんでな、ベーが使って維持してくれたら助かる。まあ、なるべく別荘はそのままにしておいてくれると助かるがよ」


 別荘へと目を向ける。


 建物の全体はわからんが、それほど大きい建物ではないようで、それほど古くもない感じだ。


 ……まあ、維持するのはメイドさんたちだし、寝場所は他に造ろうとは思ってた。バカンスに使わしてもらう感覚で利用させてもらうか……。


「わかった。使わしてもらうよ」


「おう。好きに使え」


 ってことでミタさん。あとは任せた!


 サムズアップでミタさんを見た。


「……畏まりました。すぐに人数を揃えます」


 できるミタさん、カッコイイ!


「まあ、とりあえず別荘の中を案内するよ」


 そうだなと、公爵どのの後に続いて別荘へと入った。

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