第812話 ひらめき

 揺れは十五分も続き、なぜかピタリと止まった。


「各分隊ごとにダメージ報告!」


 カイナが叫び、特殊部隊のような方々が慌ただしく動き出した。


 まあ、カイナの方はカイナに任せるとして、オレは揺れのことを考えますか。


「……今の揺れ、オレらがいるところだけ揺れたな……」


 壁のような崖は、振動で岩が落ちることはあったが、揺れで落ちた感じはしなかったし、オレの土魔法でも打ち消せなかった。


 これは局地的な揺れ。それも土魔法に反応しないなにか。ってことは、この下になにかあるってことを示している。


「皆、ゼロワンに乗れ」


 そう言ってゼロワン改に乗り込み、崖を上った。


 崖際にゼロワン改を止め、外へと出て下を眺める。


 段差は約二百メートル。霧が消えたので城がよく見え、カイナたちの動きもなんとか理解できた。


 崖際に立ち、下にある城を見る。


「城ってよりは城塞。いや、要塞か?」


「と言うより、都市ですね。多分これは、何百年か前に滅んだアリュアーナの城塞都市かもしれません」


 ハイ、説明プリーズだよ。


「移動都市、幻の都市、楽園都市と、いろいろな呼び名で魔大陸に名を知らしめてはいましたが、一夜にして消えた都市でもあります」


 なんでも高度な魔法文明を持ち、他の魔王すら手出しできなかったとか。まったく、謎に溢れた世界だよ。


「レイコさんが言う通り、あれがアリュアーナの都市だとすると、だ。なぜ崖下、って言うか窪みか? 地盤沈下して滅んだのか?」


 自分の出した答えに自分でノーを出す。


 二百メートルも地盤沈下したならあの城だって、ただでは済むまい。仮に魔力なり魔法なりで強化してんなら窪みから抜け出す技術くらいあんだろうよ。魔王すら手出しできないって言ってんだからよ。


 百歩譲ったとして、それだけの技術があるんなら都市を拡張するなり、別のところに新たな都市を造ればイイ。ここから見た感じとレイコさんの話しぶりからして、その可能性は極めて低い。


 しかも、あの城の下になかあるのは確か。そう考えるなら、あの城、いや、あの存在がオンリーワンってこと。替えが効かないってことだ。


 まあ、どれもこれもオレの勝手な推測だ。真実は解きたいヤツに任せるさ。


「見た限りでは、襲われた感じはないですね」


 レイコさんの見立て通り、朽ちた様子は見て取れるが、攻撃を受けた感じはないな。


「ん? よく見たら左右の崖とあの城の大地、なんか色が違うな」


 左右の崖は焦茶色っぽいのに対して城の大地は黒に近い灰色だった。


「そうですね。この辺は焦茶色の大地なんですが」


 なんか焦茶色の川にある中州っぽいな。


「ベー。あそこでなんか動いてるよ」


 頭の上の住人さんがなにかを発見したようだ。え、どこよ?


「あそこよ」


 と、頭の上から下りて来て、右下方向を指差した。


「……なんだ、あれ……?」


 四本の三角柱っぽいものが地面から生えており、なにか生き物のように動いていた。


「魔大陸じゃ岩が動くんだな」


「ゴーレムじゃないのですから岩は動きませんよ」


 いや、つい最近、あなたも岩が動くの見たじゃん。もしかして、岩さんの起源的なものかも知れんでしょう。あ、岩さん、今頃どうしてんだろう?


 放置しているオレの言うセリフじゃないが、たまには顔を見せんとな。


「……これはもしかして、古竜かもしれませんね……」


 なんか、ファンタジー成分の濃いものが出てきたな。


「数ある名称の中で移動都市と言うのがわからなかったのですが、アリュアーナは、古竜の背に造られた都市だったのね……」


 なにやらレイコ教授が素に戻ってます。


 ……レイコさん、探究心が強いばかりに死んでも悔いが残って幽霊になったのかもな……。


「古竜の背に都市、ね」


 ファンタジーの住人の考えはようわからんな。そんな不安定なところに都市なんて造ってどうすんだよ? 毎日地震じゃん。


 まあ、住んでいたんだろうからなんかの対策はしてたんだろうが、どう考えても住み難いと思うんだがな?


「ベー。もしかして、だけど、あれ、溝に嵌まって動けないとかじゃない? トカゲってたまにそう言うことあるのよね」


 メルヘンにしたら竜もトカゲも同じレベルらしい。まあ、オレの中でも同種だけどねっ。


「そう言われみればそんな感じだな」


 トカゲではないが、オレも前世で亀がそんなことになってるとは聞いたことがある。


「にしては、よく生きてるな。レイコさんの話だと何百年と経ってるのによ」


 飲まず食わずで何百年も生きられるものなのか? 


「竜は何百年単位で休眠しますから」


 まあ、ファンタジーの生き物に非常識なのが多いからな、突っ込むだけ無駄ってものだ。


「古竜ってなに食うの?」


 竜も種に寄って食うものが違う。肉食だったり草食だったり魔を食うものだったりいろいろ。エサがなんであれ、あの巨大を維持するには相当な量を食うんだろうな。


「見た目だけなら岩とか食べそうね」


 それなら生きてるのも頷けるな。


「古竜、いえ、正確に言う地竜ですね。地竜は木を主食とします」


「え、木?」


 って、草食系なの?


「はい、木です。しかも大量食べるので、一晩で大森林が消えたと言う逸話まであるほどです」


 それが本当なら、魔大陸がこうなるのも頷けるわな。


「可哀想ではありますが、抜け出したとしてもそう長くは生きられませんね」


 木を大量に食べますが、そのフンは大地を肥沃にするんですけどねと、レイコさんが小さく呟いた。


 ピキーンとオレの灰色の脳細胞が閃いた。


「いや、そうでもねーぜ」


 今のオレたちならな……。

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