第771話 マジびっくり 2017.01.02

 ちょっと胃が重くなってきたな。食い過ぎたか……?


 天ぷらソバとコロッケ、そして、ソフトクリームで腹いっぱいになる我が胃袋の小さなことよ。もうちょっとデカくならんかね、まったく。


 動くのがしんどいので、ちょいと休憩。その場にテーブルと椅子を出して休む。あ、ドレミさん。コーヒーお願い。


「はい、マスター」


 コーヒーカップを受け取り、一口飲むが、次が入らないので持ったまま固まっていると、コンシェルジュさんと同じ服を着たねーちゃんが脇に現れた。


「ベー様。これからのお買い物ですが、船の改造の件でカイナ様と相談してまいりますので、こちらのレイバルと代わります」


 答えるのが辛いんで、コーヒーカップを掲げて了承した。ご苦労さんです。


「ベー。このあとどうするの?」


 オレより確実に食べたのに、まったく苦にもなった様子がないメルヘンさん。あんたの胃袋どーなってんのよ?


「……買い物するよ……」


 大まかなものはあれでイイと思うが、他にもイイのがあるかもしれんからよ。


「ダメね、ベーは」


 肩を竦めるプリッつあん。なにがダメなのよ?


「ベーの買い物見てると、男目線のものばかりじゃない」


 そりゃ男ですもん。なにがおかしいんだよ?


「あのね、ベー。世の中には男と女がいるの。わかる?」


 たまにどちらにも属さない者がいますけどね。と空気が読めるオレは口にしません。ただ、わかりますと頷いておく。


「だったら女の人にも送りなさいよ」


 言われてみれば確かにそうだな。ラーシュのことばかり考えて、ラーシュの周りのことは全然考えてなかったわ。


 竜王との戦いが終わったからには、敵は身内。自分を守るには周りを固めなくてはならない。これまでのもので兵には絶大の人気があり、民衆からの支持も高いことは手紙の端々から読み取れた。


 今回のものも文官には喜ばれ、次を求めるためにもラーシュの存在価値は高くなるだろう。だが、それだけでは足りない。身の回りをする者たち──女官や侍女の存在が欠かせない存在だ。


 想像でしかないが、女官や侍女を味方にしておくことは大切だ。我が家で例えるならサプルを敵に回したら家に居場所がなくなるばかりか、いないものとされ、四面楚歌より最悪な立場になるだろう。


 我が家の絶対君主はサプルだ。サプルが白と言ったら黒でも白になるのだよ。


 いやまあ、それは大袈裟な例えだが、一番味方にしなければならないのは縁の下の力持ち的な立場にいる者なのだ。


 理解はしたが、なにを送ればイイのよ?


「そうね。まずは布ね」


 布? なんで布なのよ?


「男にはわかり難いかもしれないけど、布は結構必要とされるのよ」


 そうなの? まあ、ないよりはあった方がイイと思うが、ラーシュの国にだって布くらいあんだろう。ここよりは発展してるんだからよ。


「布はあるでしょうよ。でも、柄はそんなにないでしょう? 染めるのも技術はいるし、色糸を組み合わせるのだって時間がかかるわ。大きい国だからこそ、いろんな種類の布は喜ばれるのよ」


 いまいち理解はできんが、まあ、村の女衆を思い出せばわからなくもねーか。


 常日頃から布を集めていたが、大量に布が持ち込まれたときは獣となっていた。女に国境はないと信じるなら布を送るのは有用だろう。


 でも、ラーシュの国、熱いところだぜ。ありがたく思われるだろうが、そんなに喜ばれるものか?


「もー! 布は別に服だけに使われるだけじゃないの。手回りのものから身の回りのものまで、結構重宝するものなのよ」


 へー。そうなんだ。布、侮れねーな。


 んじゃ、布を送るか。他にはなにかあるのか?


「布を送るなら糸も必要ね。糸は結構使うから」


 まあ、それはわかる。糸はこの大陸でも重宝され、イイものは一巻きで金貨一枚で取り引きされると聞いたことがある。


 そう知ってたからモコモコ族に毛を寄こせって言ったんだからよ。ちなみに、モコモコ族の毛、一巻きで銀貨一枚に変わったってあんちゃんが言ってた。


「糸は白と黒を中心に、試し用で各種の色を送ったらいいんじゃないかしら? 流行や好みがあるし、禁忌な色とかあるかもしれないしね」


 あー確かにあるな、それ。帝国じゃ紫は堕落の意味として嫌われていると聞いたことがあるし、この近辺では緑色が幸運の色として好まれているしな。


「ボタンやビーズなんかも喜ばれるかもね」


 そこまで行くとオレの範疇を超えるな。どう喜ばれるかわかんねーよ。


「まあ、その辺はわたしが選んであげるわよ。ベーでは無理だしね」


 ハイ、素直にお任せします。好きなように選んでくださいませ。


「あ、コーリンにも買ってていいでしょう?」


 コーリン? って誰だっけ? な~んて冗談だよ。コーリンだろう、コーリン。コーリンは……あれだよ。まあ、あえて口にはしないけどよ。


 まあ、好きなだけ買うがよい。コーリンにはお世話になっている……はずだからよ。


「あ、花月館にお茶のセットがなかったからここで揃えようかな。ベー、買ってもいいでしょう?」


 花月館? あ、ハイハイ、了解了解。全てが繋がったよ。オシャレ令嬢のコーリンな。違うコーリンさんと勘違いしてたよ。本当だよ。本当だからね。


 必要なものは買うがよい。今日は爆買いの日じゃ。


「じゃあ、先にいってるわね。早く来てよ」


 と、青鬼のコンシェルジュさんを連れて飛び立っていった。


「元気なメルヘンだよ」


 こっちはまだ腹いっぱいで動けねーのによ。


「……なんと言いましょうか、ベー様の表情だけで会話できるプリッシュ様がマジ凄いです……」


 万能メイドがマジを使ってることにマジびっくりです。

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