第735話 もう、好きにしろや

家臣たちとの昼食が終わり、その場を領主さんに任せて城の外に出た。


「なにするんですか?」


 草むらと化した庭に出ると、背後にいるレイコさんが脇に出て来てた。


 脇に出れんなら背後にいんなよと思いながら、地面を右足で叩いた。


「まずは庭の手入れをやる」


 もう何年も手入れしてねーから軽くジャングルになっているため、城の後ろにも行けねーし、城の朽ち具合も中からしかわかんねー。見通しをよくしねーとやってらんねーよ。


 畑仕事や樵仕事なら体を動かすんだが、やりたくもねー領主仕事(?)に体力や時間を使ってられるか。ここはスピーディーに行くぜ。


 土魔法により放り出された雑草や雑木を結界術で圧縮し、穴を掘って中へポイ。あらどうでしょう。見違えるようにキレイになりました。


「……キレイになり過ぎてなにがあったかわかんなくなっちまったな……」


 これだけの領主城なら厩や兵舎、倉庫や小屋があっただろうに、メンドクセーと整地しながらゴミを一纏めに処分しちまったわ。


「まあ、適当に造っておくか」


 今のところ馬も兵士もいなければ、倉庫に入れる麦もねー。ってか、よくこれで麦を集めていたよな? 可もなく不可もねー伯爵領とは言え、それなりの規模だ。麦だけでも数千トンにはなんだろうがよ。


 まあ、その辺はヴィ・ベルくんと家臣団でなんとかしてちょうだい。オレは倉庫に貯める方を受け持つんでよ。


 取り合えず、厩と兵舎っぽいもの、あと、倉庫を造っておいた。


「食料がねーのも不安だし、なんか入れておくか」


 そろそろ補給しなくちゃと思ってたから大したものは入ってねーが、プリッつあんの力を使えばノープロブレム。小袋に入った小麦粉でもデカくすればトン袋(トンパック又はフレコンバックね)。四つもありゃー来年まで持つだろうよ。


 たぶん、メイドさんたちも独自で持って来ただろうから塩と砂糖、ゴジルに漬物、あと、酒でもあれば充分だろう。念のため、的なもんだしな。


「さて。城の修復に取りかかるか」


 この時代の城はだいたい石を切って組んだもので、羊毛や布で石壁を塞いで見た目を誤魔化している。


 まあ、村人なんで城になんか入ったのなんて数回くらいだから、それほど詳しくはねーが、まあ、なにも急ぎではねーし、今は雨風防げて仕事ができる状態まで修復させたらイイだろうよ。


 庭の手入れより簡単なので三時にはだいたいのことはやり終えた。ちょっとマン〇ムしますか。


 下から上に向かって修復して来たので、今は屋根の上。ってか、見晴らし台的な部屋へと改造。眼下には領都が広がってます。


 領主城の背後は山なので、領都は扇型に広がってんですよ。


「領都に住むヤツらはどんな気持ちで領主城を見てたのかね?」


 なんて、関心を示さなかったオレのセリフではねーか。すんません。


 廃墟な領主城とは違い、それなりにキレイな街並みを眺めていたら、エリナが現れた。


 ……ここに通じる階段、造ってねーんだがな……。


 そんなことエリナには通じねーか。オレ以上に反則な能力を持ってんだからよ。


「まだいたのか」


 昼食のときいねーから帰ったかと思ってたよ。


「いや、一度帰ってヴィ・ベルの配下を創って来たでござるよ」


 本当に反則な能力を持ってやがるぜ。まあ、これっぽっちも羨ましくはねーがよ。


「んで、どうした?」


 いつの間にかあった椅子に座り、これまたいつの間にか出した緑茶を飲むエリナ。手品か!


「内政に適した者を連れて来たでごさる」


 内政に適した者ってなんだよと突っ込みたかったが、頼んだ本人がやることじゃないんでガマンです。


「来るでござるよ」


 と、本当にどこにいたんだよと突っ込みてーくらい、見晴らし台的な部屋に四人のイケメンが現れた。


 どいつも人の姿をし、見た目は二十代半ば。文官として連れて来たと思うが、体は貧弱ではなく、武官でも通じそうな体つきであった。


「種族はなによ?」


 エリナが創ったからには人ではねーはずだし、こちらの神(?)が人を創る能力を見逃すとも思えねー。人を生み出すとか、もはや神の領域だわ。


「キョーコさんと同じホムンクルスでござる」


 確か、人造人間だっけか? まあ、その手の話に詳しくねーが、寿命とかあんのか? ってか、年とれんのか、こいつら?


「拙者の部下なので拙者が死なない限りは生き続けるでござるが、ちゃんと年をとれるようには設定したでござる。七十まで年を取ったらリセットされて今の姿になるでござる。まあ、その前に引退させて入れ替わるとよいでござろう」


 ふ~ん。エリナのクセにちゃんと考えてんだ。生意気な。


「拙者よりヴィどのはどうするでござる? 領主になったら後継者問題とか、他の貴族から目をつけられるでござるが」


 こいつ、意外と頭イイ?


「ヴィ・ベルはドレミから分裂したものならドレミをあてがえばイイし、後継者は養子でも迎えればどうとでもなる。その頃にはイイ人材が揃っているだろうしな」


 貴族からの圧力など金と力でねじ伏せればイイし、シャンリアル領は、ヤオヨロズ国の支援領。ヤオヨロズ国に友好的なら領主なんて誰でもイイよ。それこそ魔族でもな。


「百年後、オレは死んでるが、お前は生きてる。カイナも守護神ズも生きてる。気に入らなきゃ変えたらイイさ。好きにしろ」


 オレは人間に転生したんだ、百年先のことまで面倒見れるか。後はその時代のヤツらがなんとかしろ、だ。


「つーか、なんで男なんだ?」


 いや、女がイイってわけじゃねーが、なにも若い男にする必要はねーだろう。これから領地を立て直さなきゃならんのだから、ある程度年齢を高くして、経験豊富そうな風貌のほうが領民は安心できる。


 領主も若けりゃ家臣も若いでは侮られんだろうが。この時代では年功序列が当たり前。能力があれば認められるほど成熟した時代じゃねーぞ。


 ……貴族はまた別の理屈が支配するけどな……。


「領主とのカップリングは大事でござる!」


 ワリー。お前がなにを言ってるか、理性が全力で拒否してるよ。


「……もう、好きにしろや……」


 四人のイケメンを相手にするのはヴィ・ベルくんだし、エリナたちに任せたようなもの。オレに被害はねー。


 あ~。今日もコーヒーうめ~です!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る