第724話 書斎バー

 なにはともあれまずは朝食といこうや。オレの腹具合ではもう昼をとっくに過ぎてる感じだからよ。


 サプルの愛情てんこ盛りの朝食をいただきながら食堂を見回す。


 ……やっぱり、ダークエルフのメイドさんズが少ねーな……。


「なあ、サプル。ダークエルフのメイドさんズがいねーが、どうしたんだ?」


「メイドさんが多くなったから組み分けしてメイドリーダーにしたの」


 まず、サプルの考えではねーな。そもそもメイドもリーダーもオレが勝手につけて勝手に読んでたものだ。それを素直に受け入れた周りが素直に使っている現状だもの。


 ……つーか、よく受け入れたよな……?


「ねぇ、あんちゃん。メイドさんたちの仕事ないかな? もう回せるとこないんだ」


 もうそれだけでメイド供給が破綻してることが理解できた。


「……ちなみに、何人余ってんだ?」


 聞くのが怖いが、聞かねば始まらん。覚悟を決めろ、オレ!


「ん~百人くらいかな?」


 ……な、なんだろうな。百人を少ないと思うオレがいるよ……。


「なら、ヴィアンサプレシア号と同じくらいの人数を選んでミタさんに渡してくれ。ミタさんの配下にするからよ」


 帝国にいくときは、ヴィアンサプレシア号とヴィベルファクフィニー号の二隻でいく。どちらも同じレベルにしてくれると助かるよ。


「わかった~。シフさんお願いね」


 シフさん? 誰や? と思ったらメイド長さんだった。ってか、シフォムっ名前だったのね。


「あの、ミタレッティーを抜きにして勝手に決めてもよろしいんでしょうか?」


「構わんさ。ミタさんならなんとかすんだろう」


 リーダーシップに優れているって感じじゃねーが、それなりに使いこなすだろうさ、ミタさんならよ。


「畏まりました。では、こちらで選別致します」


 あいよ。メイド長さんにサクッと任せた。


 朝食が終わり、各自それぞれの仕事へと出ていった。


「場所変えようか」


 食堂に居座るのもサプルたちにワリーし、公爵どのや領主さんに失礼だ。いや、今さらですけどねっ。


「つーか、食堂以外でうちに落ち着くとこあったっけ?」


 これも今更で申し訳ございませんが、食堂が客間でもあったわ。


「なら、おれの書斎で話すか?」


 と、親父殿。え、書斎なんてあったの? 初耳なんですが!?


「いや、レッセルが館の主なら書斎の一つもないと沽券に関わると言って書斎を作ったんだよ。おれは別にいらねーんだが」


 レッセル? 誰よそれ?


「──そうはいきません。ベー様の父君でゼルフィング家の当主であります。そんな方が書斎の一つもないようでは他家から侮られます。本当なら執務室も欲しいところではありますが、部屋が不足している状況では致し方ありません」


 と思ったら執事さんでした。ってか、いたのね。気配がねーからわからんかったよ。


「いやだから、元冒険者で一代限りの貴族だが、おれは村人としてここにいるんだって言ってるだろう。執務させたきゃベーにさせろよ。おれより仕事してんだからよ」


「こっちにふんなよ。ってか、酒造りはどうしたんだよ?」


 そう言や、あの酒の精霊はどうしたっけ? 親父殿に渡したような記憶はあるんだが……。


「酒のもともねー上に場所もねーのに始められるか! あの精霊なら書斎にいるよ」


 書斎に? なんでそんなところにいんだ?


 と、書斎に入ったら確かに酒の精霊がいた。つーか、なんだいここ? 酒ばっかりじゃねーか。


「いやもうバーだよ。書斎じゃねーよ」


 誰だよ、書斎と言い張ってるの? 本もなけりゃ机もねーよ。カウンターのある書斎なんてねーよ。仮にあったとしてもオレは認めねーよ!


「つーか、カイナだな、こんなことしたの。まったく、うちの中まで魔改造しやがって」


「いいではないか。おれの書斎も似たようなものだ。もっとも、ここほど酒はないがな。ザンバリー殿、一本もらうぞ」


「朝から酒と言うのもなんだが、まあ、好きに飲んでくれ。どんだけ飲もうが一向に減らんからな」


 本当に魔改造しやがってたか。ったく、うちの親をアル中にさせる気かよ? 親父殿、酒は好きだがそんなに飲む方じゃねーんだぞ。


「アル殿もどうだ?」


 随分と打ち解けてんな。まあ、公爵どのは、相手が平民だろうとなんであろうと壁を作らねータイプだ。よほどの偏屈じゃなけりゃ数分で仲良くなんだろうよ。


「いや、名を捧げた方の前で酒など……」


「そんな名を捧げたくらいで畏まるほど崇高な男ではない。どうせこいつのことだから利用できるから名を捧げろと言ったんだろうよ」


 ハイ、まったく持ってその通りでごぜいますよ。


「そうですよ、アル殿。このバカに遠慮も気遣いも不要です。いや、無駄です。雑に扱ってやってください」


 親父殿もかい。いったいどんな友情物語があったんだよ。やるんならオレの見えるとこでやれや。なんか仲間外れにされた気分だわ。


「まあ、親父殿や公爵どのの言う通りだ。別に畏まることねーよ。領主さんには味方になって欲しいしな」


 持つべき友は権力者。仲良くしようぜ。ククッ。


「お前はどこの黒幕だよ……」


「……味方にしたけりゃもっと友好的に笑えや……」


 おっと、これは失敬。友好的友好的。こんな感じ?


 にぱーって笑ったら酒瓶が二方向から飛んで来た。なんでよ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る