第692話 なんのその
はぁ~。さっぱりさっぱり、イイ湯でした~。
ホカホカ気分で風呂場を出ると、通路にはメイドさんで溢れていた。
「え、なに!?」
「あ、ベー様。おはようございます」
一人のメイドさんがオレに気がつくと、周りにいたメイドさんが一斉に挨拶してきた。うっさいよ!
とは言えないので、挨拶しながら食堂へと向かった。
食堂の中もメイドさんで溢れ、姦しく食事を取っていた。
ベー様おはようございます! の大合唱を奏でながら囲炉裏間へと向かうが、それ辞めて。スッゲー恥ずかしいから。もう拷問だよ、それ……。
囲炉裏間には誰も……いや、プリッつあんとレイコさんがいた。あれ、ドレミは? と周りを見たら後ろにいました。いつの間に!? 全然気がつかんかったわ!
なんて驚いてみたが、日頃からいるいないを気にしないオレが言うセリフではありませんでした。すみません。
「親父殿たちはまだ起きてこないのか?」
「まだ五時だしね。さすがにまだ寝てるわよ」
五時? なに言ってんの?
「ベー! いるか!」
と、呼ばれて声がしてほうに目を向けると、あんちゃんがこちらへと向かって来た。どうしたい?
「人魚が予想以上に集まってんだよ! このままじゃ暴動になっちまうよ!」
「もうかよ。気が早い連中だ……はぁ?」
ふっと腕時計を見れば五時ちょっと過ぎ。いや、早いよっ! 早過ぎるわ! クソ! 道理で意識がはっきりしないわけだ。オレは七時間は寝ないと調子でないタイプなんだぞ!
「ったく。こーゆーときは気が早いんだからよ、人魚って生き物はよ」
普段はゆっくりなクセに、イベント事になると遠足前の小学生になるんだからたまらんぜ……。
「どうしたらいいんだよ!?」
「しゃーねー。開店時間を早めるか。ただし、人魚たちには開店時間を早めることを伝え、今から開店準備に取りかかると説明しろ。それで少しは時間を稼げるはずだ」
不思議なもんで、ちゃんと理由を伝えると信じて待つんだよ、人魚って生き物はよ。
「メイドさんたちにはワリーが、食ったもんから舟に乗せて出させろ。配置とか用意はできてんだろう?」
これからだ、なんて言ったら殴るぞ。
「それは昨日のうちに済ましてある。だが、今から出しても全部出すには結構時間がかかるぞ」
「出した順に遠くに、ばらけるように配置しろ。それで混まないようにできるからよ」
歌姫の海は、クルージングできるように広く設定してある。人魚が一万人入っても余裕はあるはずだ。たぶん……。
「わ、わかった。あ、入り口はどうする? 開閉はフミが仕切ってるんだが?」
「ミタさん。フミさんに言って三十分後に開けろと伝えてくれ。誘導はどうなってる?」
「畏まりました」
任せっ切りなオレですみません。
「それはマリーンたちに任せた。あ、マリーンにも連絡しなくちゃならんか」
マリーン? 誰よ、その方?
「アルタ・マリーン。ベーが勝手に名前を変えた人魚の歌姫さんよ」
……あ、ああ、あの方ね! 知ってる知ってる。顔はちょっとおもいだせないけどさ。
プリッつあんの白い目などなんのその。今は未来志向でいくべきデス。
「ミタさん。マリーンにもヨロシク」
「畏まりました」
そんなデキるミタさん愛してます。
「……なんだろうな。お前が解決しているのに他人任せにしか見えたいのは……」
「上に立つと言うことは人を使うこと。あんちゃんもできるようにしろよな」
もう行商人ではなく、大商会の会頭であり世界貿易ギルドの長でもある。なんでもかんでも自分でやろうとすんな。仕事を振り分けて自分を楽にさせろ。じゃないと体を壊すぞ。
「……自分でやるのが面倒くさいだけでしょうが……」
プリッつあんの心を抉るような指摘などなんのその。理由(本音)は違っても意味は同じだもん。
「まあ、この際なんでもいい。メイドさんたち。ワリーが、食ったらすぐに出てくれ。給金は三割増にするからよ」
給金、どんだけ出すかわからんが、三割増が効いたのか、急いで食事を済ませると、ダッシュで出ていくメイドさんたち。どんだけ好待遇で雇ってんだよ?
「今、家が売り出されるからな、銅貨一枚でも稼ぎたいんだよ」
なにやらオレの知らないところで持ち家ブームが到来しているようです。
「あ、カイナのヤツ、団地造ってたっけな」
ファンタジーな世界で団地とかどうなのよ? とか思わなくはないが、カイナが造ってるならそれなりに快適だろうよ。変な拘りを持つヤツだからな。
「まだまだ仕事が不足してるからな、奪われないように必死なんだよ」
仕事な~。ジオフロント計画が進んでくれたら農業や工業とかに回せるんだが、今はなんともかんともいかんせん。開発事業で繋ぐしかないだろうな。
「んじゃ、おれは先に出るな。お前も買い取りの時間を早くしろ。そっちも長蛇の列になってるぜ」
チッ。しょうがねーな、こん畜生が。
「ミタさん。簡単に食えるものを頼む。オレらは先にいってるからよ」
「はい。すぐに用意して参ります」
いつものメンバーに目を向けると、それぞれがそれぞれの位置についた。
「ほんじゃ、今日も元気に働きますか」
転移バッチを発動。買い取り船へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます