第686話 三国伯爵領

 とりあえず、今は村人活動時間なので伯爵はお片付けします。


 無限鞄へと放り投げ、漬物をバリボリ。あー漬物うめー!


「……いや、名ばかりのものだが、そんなぞんざいに扱うなんて……」


「伯爵は結構な地位だぞ」


「まるで興味なし、ですね」


 どうもこの世界の住人は、三人揃うと連繋突っ込みをするようだ。なんの法則だよ。


「そんで、用はこれだけか?」


 終わったなら帰れや。そろそろ夕食だし、久々に家族団らんしねーと、オレの立場が失われそうなんでよ。


 姫商人さんと乙女騎士さんが背筋を伸ばし、オレを見る。なんだい?


「我が国にも水竜機を卸して欲しい」


「我が国もお願いします」


「イイよ」


 と、答えたらあんぐりと口を開ける姫商人さんと乙女騎士さん。なんだい?


「……あ、いや、その、いいの……?」


「ああ、イイよ。もともと人魚の国に広めようとしてたからな。そっちから言ってくれて助かるよ」


 槍で戦っていた人魚に革新的な水竜機が受け入れられるか謎だったし、どうすればイイか答えが出なかった。それが姫さんズから言ってくれるなんて万歳三唱もんだよ。


「ただ、ものがものだけにすぐには無理だ。まだ、数も揃ってねーし、搭乗者の育成もなってねー。まずは姫戦士の国から配備して、ある程度乗り手が育ったら隣国に、って感じだな。魚人の国と一番やり合ってるのはこの国だからな」


 他の国もちょっかいは受けてると聞いてるが、魚人にしたらこの国が一番の敵国。一番攻撃を受けるところだ。


「姫商人さんや乙女騎士さんにはワリーが、この国が強国になってもらわねーと異種族国家が困るんだよ」


 エリナの国にしたらこのバルデラル王国が隣国。盾になるだけの力を持ってもらわねーと安心して暮らせねーよ。


「……そうか……」


「そうですか……」


 残念そうに項垂れる姫商人さんと乙女騎士さん。それでは二人のメンツが立たねーか。伯爵の位をもらっておいて。


「まあ、水竜機は人魚の世界にはねー技術だ。一年二年で理解できるもんじゃねー。技師候補と操縦士候補、十人くらいこの国に寄こせ。姫戦士、三国同盟なら受け入れろ」


 三国同盟して一国だけ優遇されてたら不和のもと。調和を持って励んでくれや。


「わかった。父陛下に伝えよう」


 そー言や、人外どものことすっかり忘れてたわ。まあ、どうしようとは思わねーんでほっとくがよ。あれは放置だ。


「あと、港……あ、なんて言ったっけ? あんちゃんが名前変わったって言ってたが……」


「ドロティアの港です」


 ミタさんからのナイストス。ここは見事にアタックせんとな。


「あ、うんうん。ドロティアの港ね。知ってる知ってる」


「完全に、欠片すら覚えないときの返事ね」


 それをものの見事にブロックするプリッつあん。や、やるな……。


「あ、うん。オホン。ドロティアの港……じゃなく町……」


 あれ、なんだっけ? 忘れっちまったぜ。


「ハルの町です」


「うんうん、それ。そのハルの町に領事館を造れや。交流の一環でよ」


 プリッつあんのブロックを阻止(口を塞ぐ)し、話を進める。


「わかった。それも父陛下に伝えよう。だが、あそこはハルヤールの領地だ。他国の領事館を置くには拙くないか?」


「どうせハルヤール将軍は忙しくて管理できねーんだ、いっその事、特別区にして新たな領主……は、難しいか」


 ハルヤール将軍はオレが言ったら了承するだろうが、ウルさんやハルヤール将軍の部下が納得しねーだろう。それこそ不和が生まれっちまう。


「よし。そこはオレがもらう。三国伯爵領とする」


 しばらくウルさんに任せて自由特区にして商人の町に。落ち着いたら商人から代表を選んで丸投げする。うん。それでいこう。


「あ、ドロティアの港にある領主館はハルヤール将軍のだから治外法権な」


 あそこはハルヤール将軍の終の棲家。誰にも渡すわけにはいかねーよ。


「ハルヤールにはベーから話を通してくれ。あそこは我らには手が出せんのでな」


「わかった。オレからハルヤール将軍に言っておくよ」


 それは人任せにはできんしな、オレが筋を通そう。


「マスター。サプル様より伝言です。夕食はどうするの? だそうです」


「今いくと伝えてくれ」


「畏まりました」


「せっかくだ。姫さんズも一緒にどうだい? イイウリとイイ酒があるぜ?」


 サプルならすぐに用意してくれんだろう。サプルの鞄はオレのより食糧が豊富だからよ。


「どうする?」


 姫戦士さんが二人に問う。


「地上の食事には興味があるし、お呼ばれしましょう」


「そうですね。わたしも興味があります」


「そうか。なら、お邪魔させていただこう」


「オルグンもこい。護衛で来たんだろうからよ」


 いきたそうな顔をするオルグンに声をかけてやる。


「はい! 喜んで!」


 居酒屋の店員かよ。まあ、貧乏クジを引いた分はもてなしてやるよ。


「ドレミ。四人追加を伝えてくれ」


「はい。サプル様より歓迎するとのことです」


 マイシスターに感謝の敬礼!


「ミタさん。姫さんズを頼む。オルグンはオレとだ」


 女は女に任せ、男はオレが引き受けた。


 まず先にミタさんたちをいかせ、続いてオレとオルグン、そしてドレミ。プリッつあんはとっくに転移していきました。歌姫さんたちも呼ぶとかでな。

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