第679話 レイコさん

 ハルヤール将軍とのお話も終わり、監禁場所から解放された。


「ミタさん。ワリーけど、ちょっと昼まで寝るわ」


 徹夜しても体内的には平気でも、精神は疲れている。イイ日にしたいなら適度な睡眠は必要である。


「畏まりました。あ、お声をかけますか?」


「いや、大丈夫だ。目覚まし時計があるからよ。オレが寝ている間に歌姫の海の準備を頼むわ」


 サプルたちがやってんだろうが、イメージを持っているのはオレだけ。まあ、ミタさんも知らねーだろうが、やればできるメイド。任せればやってしまうだろうよ。


「はい。では、準備を進めておきます」


 あ、やれるんだ。ほんと、万能なメイドさんだよ。


 んじゃと、転移バッチでゼリフィングの館の自分の部屋に転移する。


「ドレミ。あんちゃんの様子を見て来てくれ」


 まだ仕入れ中だろうが、量によってはこまめに送った方がイイ。それを見て来てくれや。まあ、分裂体がいくんだろうけどよ。


「畏まりました。緑にいかせます」


 頼むと、着ている服を脱いで拘束用パジャマに着替える。


 今さらだが、オレもプリッつあん気にしない。どちらも異性とは見てねーからな。まあ、だからと言って親しき仲にも礼儀ありの仲でやってます。


「わたし、歌姫の海を見て来るね」


 そこら辺をホバリングしていたプリッつあんがそう言うと、転移バッチで歌姫の海へと飛んで行った。


 なにも最初から行けばイイじゃねーか。とは思ったが、ベッドを前に眠くなったので、直ぐに頭から放り投げた。


 ベッドに飛び込み、お休み一秒。夢も見ない眠りへとついた。


「──なんてことあるわけねーだろう」


 がばっと起き上がり、もとの服に着替える。お話に備えて栄養剤飲んでんだ、寝れるかよ!


 そのまま転移バッチでクレインの町に飛び、空飛ぶ結界で先生のところへと向かう。


 湖畔に建つメルヘンなお城。プリ……なんだっけ? いやまあ、なんでもイイか。今は先生のもんだしな。


「先生いるかい?」


 庭を掃除するクルクルパーマなフランケンなメイドさんに声をかけた。


 つーか、庭に気を向ける情緒なんてあったんだ。魔大陸にあった家は質素……いや、廃墟か? ま、まあ、見た目より中身のマッドだったのに、どう言う風の吹き回しなんだ?


「フガー」


 頷くフランケンなメイドさん。


 意思疎通はできるようにしてあるのに、なぜか会話できないこの不思議。まあ、あの先生、興味のないことには無口だし、どうでもイイことにはとことん無頓着だしな。


「フガフガフガー」


 多分、ただ今寝ています的なことを言ったんだろう。オレの勘がそう翻訳した。


「今は誰が仕切ってんだ?」


「フガーフガフガフガーフガ」


 なにを言っているかはわからんが、感じからして世話役のあれだろう。頭に渦巻きの角を持つ……フガ子さん。つーか、名前つけろや。区別で──きてますね。同じ個体いねーし。


「んじゃ、そいつにベーが海に詳しいヤツを貸してくれと言ってたと伝えてくれや」


「フガー」


 わかりましたと頷き、城ん中に入っていった。


 しばらくしてパーマさんとフガ子さん、そして、幽霊なメイドさんが現れた。


 先生のメイドに突っ込んでもしょうがねーとわかっているが、さすがに幽霊はねーだろう。なんの役に立つんだよ!?


「フガフガフガーフガー」


 ようこそおいでくださいました。この者が海に詳しいメイドです、的なことを言ったんだろう。


「あ、どうも。海に詳しいメイドです」


「しゃべれんのかいっ!」


 思わず突っ込んでしまった。


「え? しゃべれますが?」


 それがなにかとばかりに不思議がる幽霊メイド。いや、不思議がいっぱい謎いっぱいだわ!


 つーか、幽霊のクセになんか軽いやっちゃな~。半透明で足がないのに、存在感バリバリ出してくんな、おい!


「あ、いや、まあ、しゃべれんならイイよ。フガフガじゃ細かいことまでわからんしよ」


「え、フガフガがわかるんですか!? 長年いるわたしにもわからないのにっ!?」


 いや、スゴく驚いているけど、それはこっちだから。そんなわからない状況でよくいられたな。それが一番の不思議だよ!


「……しかし、何度も先生に会ってるのに、あんたに会うの初めてなんだが、全然気がつかんかったわ……」


「まあ、幽霊ですし、普段は消えてますんで」


 さも当然に言っているけど、どれもこれもおかしいことばかりだからね! 幽霊で片付けんなや!


「フガフガフガフガー」


 躾がなってなくてすみませんと、頭を下げるフガ子さん。まったくだよ!


「まあ、イイよ。で、借りてってイイのか?」


「フガー」


 どうぞ持ってってください。なんなら引き取ってくれると助かります。って聞こえるのは気のせいだろうか?


「……うん、まあ、そこは先生と要相談ってことで。しばらく借りるな」


「フガー」


 わかりましたと、フガ子さんは城の中に。パーマさんは庭掃除に戻った。


 ため息一つ吐き、幽霊メイドを見る。


 見た感じ、人族には見えるが、半透明でよくわからんな。髪も瞳も辛うじて茶色とわかるくらい。耳も普通だし、角もないしよ。


「オレはベー。あんたは?」


「メイドです」


「名前、ねーのか?」


 まあ、あるって訊いたことねーがよ。


「はい。ご主人様は名前を呼びませんから」


「ねーのも不便だからレイコと呼ぶわ。構わねーか?」


 安直と言うことなかれ。覚え易いのが一番デス。


「……レイコ……」


「気に入らなきゃユウコにするが?」


 オレ的にはレイコ推しです。


「いえ、レイコでお願いします。フフ」


 と、なにやら嬉しそうに笑うレイコさん。幽霊ってなんだろうとつい考えてしまうな……。


「んじゃ、レイコさんよ。すぐにいくが、用意とか大丈夫か?」


 って言うか、もの持てんの?


「あ、大丈夫です。わたしは、調査が専門でしたから」


 まあ、幽霊だし、どこにでもいける、のか?


 いや、謎を解きたいわけじゃねーしな、ここは軽くスルーしておこう。


「レイコさん、オレに触れられんのか?」


「はい。憑くことはできます」


 幽霊だけにってか。笑えねーよ!


「……レイコさん、怨霊じゃねーよな……?」


「失礼な。わたしは至って普通の幽霊です」


 プンプンと怒るレイコさん。突っ込みはしねーぜ。


「ま、まあ、害がねーのならなんでもイイわ。オレにつかまれ」


 決して憑かないでくださいね。夜中にトイレにいけなくなっちゃうからさ……。


「では、失礼します」


 いや、なぜに背中につかまるの!?


「ここが落ち着くもので」


 幽霊だけにってか。ほんと、笑えねーよ!

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