第626話 説明よろしく
「では、ベーさま。王都でお待ちしております!」
と、オルグンたちが去っていった。
「……ってか、イイのかアレ、そのままにしていって?」
モコモコビームにより頭(かどうかは謎だが)が吹き飛んだタコ型海獣が放置されていた。
「ベー、わざと確認しなかったでしょう?」
ハイ、わざと黙ってましたがなにか?
「まさか、食べるとか?」
ハイ、食べますがなにか?
プリッつあんが、バケモノを見るような目でオレは気にしません。だって、前世はタコを食べる民族でしたから。
「ミタさん。モコモコガールを頼むな。オレ、ちょっとあの浮いてる海獣のところに行ってくるからよ」
「わたしもいかなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。そう手間はかからんしな」
生きてたら近寄りたくねーが、死んだのなら問題はねー。あそこにあるのは食材だ。
村でもそうだったが、タコを食う文化はなく、ゲテモノの分類に入っていた。
前世同様、毒を持つものもいたが、こちらのタコはなぜか毒を持つものは少なく、結構旨いときてる。
ただ、この世界のタコは大型化しており、小さいものでも四トントラックを潰すくらいのサイズであった。
オレが見た中でもモコモコビームを食らったタコ型海獣は一番デカいが、オレの勘が食えると言っている。
まあ、あくまでも勘であり、確証はないが、編み出した毒抜き結界があれば問題なし。恐れず試食だ。
オルグンたちが浮かべていた光の玉がなくなったので、結界灯を数十個生み出して辺りを明るくする。
イイ感じに明るくなったら空飛ぶ結界を生み出し、飛び乗る――と、モコモコガールも飛び乗って来た。
サイズが違うので慌てて空飛ぶ結界を広くして受け止めた。
「どうした、モコモコガール!?」
「あれから美味しそうな匂いがする」
タコ型海獣に鼻を向けてクンクンしている。
「……わかるのか?」
見た目的以前に種として間違った進化してないか、このモコモコガールは?
「あれ、焼いたら美味しい気がする」
どう言った識別しているのかはわからんが、まあ、オレの勘も似たようなもの。ならば、恐れる必要はなし。感謝を込めていただきますだ。
「なら、わたしもいきます」
ミタさんも飛び乗って来たので三人でいくことにした。
あ、プリッつあんは断固拒否したので、ドレミを護衛役にして置いてきました。
浅瀬なのか、浮力があるのかは知らんが、タコ型海獣に上陸してもしずむことはなく、それほど臭いはしなかった。
「煮ても美味しいかも」
あの短時間で五、六キロの海竜ステーキを食ったはずなのに、飢えた野獣のごとくヨダレを垂らしていた。暴食の獣か!
「ミタさん。コンロとか持ってるか?」
「キャンプ用のでよろしいですか?」
炭が入ったコンロを出すミタさん。
言っておいてなんだが、どんな選択をすればそんなもの選ぶの? まず買わないよね、それ……。
まあ、あるんならどうでもイイか。ミタさん、グッジョブです。
なにか手慣れた感じで炭に火を点ける(魔術的な方法で)のを横目に、タコ型海獣の足(腕か?)を結界刀で斬り、コンロに乗るくらいに捌いた。
「よろしく、ミタさん」
サプルの話ではミタさんの料理の腕は高いようで、料理担当のメイドさんズの中では三番目にいるらしい。
三番目と聞くとなんか微妙な位置と思うが、それはサプルから見ての三番目であり、オレから見たら高級レストランのシェフクラスだ。
「はい、焼けました」
皿に盛られたタコ型海獣の焼き身を頂く。
「お、旨い」
「ふむー!」
なにこれ? メチャクチャ旨いじゃん! そんなに固くないし、ちょうどイイ歯ごたえ。噛めば噛むほど味が出てくる。
「ミタさん、醤油で焼いて」
「マヨ! マヨで!」
「はいはい、少しお待ちください」
サプルのように分身はしないが、腕が八本に見えるくらいの早さでタコ型海獣の身を焼いていくミタさん。
「はい、醤油です。こちらはマヨネーズです」
旨い。旨すぎる。これ、タコ焼きにして食いてー! ミタさんお願いします!
「ちょっと待ってください。確か、タコ焼き器を買ったような……あ、ありました。直ぐに作りますね」
どんな判断のもと選んだのかも、なぜ作り方を知っているかも謎だが、作れるのならなんでもイイ。タコ焼きうまー!
いつの間にかタコ焼きパーティーになっていたが、この旨さの前にはどうでもイイや。
「うぷっ。食い過ぎた……」
あまりの旨さに限界を超えて食ってしまった。コーヒー飲まないと。
オレの胃薬はコーヒー。一杯も飲めば……変わるわけないです。あー腹くっちー。
タコ型海獣の上で大の字に寝てると、空に光の玉が幾つも現れた。
――え、UFO!?
え、え? え、アブダクションされちゃう系!?
「あら、竜機とコーレンですね。あんなに出て来てどうしたんでしょうね?」
ヴィアンサプレシア号は交代制だが、今は夜の十一時。だいたいの者は就寝だ。つーか、竜機って明かりとか出せたんだ。
方位計や魔力感知計とかあるのは知っているが、夜中を飛ぶほど優れた乗り物じゃねー。ヴィアンサプレシア号の識別灯を見失えば帰ってこれないぞ。
竜機の噴射音がすると同時に竜機が一機、上空を駆け抜け、しばらくしてコーレンが二十近く降りて来た。
「ベー!」
と、船長の声がして、コーレンが一機、タコ型海獣の横に着水した。
「どうしたい、船長?」
「どうしたかじゃない! いきなりいなくなるから心配したぞ! 見張りからヴィアンサプレシア号の下では光の爆発が起こったと言うし、いったいなんなんだ!?」
なにやら大事になってます?
「ワリーワリー。ちょっと実験しに降りて来たら知り合いの人魚がこの海獣と戦いをしてて、偶然にもモコモコビームを撃ったら倒しちゃってよ、なんやかんやで四日後にいくことにしたんだわ。で、人魚たちが海獣を置いていったからありがたく食してたんだよ」
簡素に、あったことを説明した。
「うん。お前の言っていること、なに一つわからんわ」
え、わかり難かった?
「じゃあ、ミタさん。説明よろしく」
「はい。畏まりました」
オレはもうちょっと腹ごなしをしますんで。
やはり腹八分目が大事だな。あ、胃薬飲んでおこう。
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