第622話 カモーン
大佐の指示で曳船三十台がヴィアンサプレシア号の前に集められた。
正式名は曳船だが、これを操る者からはコーレンと呼ばれているらしい。
まあ、前世風に言えば、ニワトリが近いかな? 小人族で一般的家畜で、飛べはするが機敏ではなく、太っているところが似てるんだと。
コーレンを見たときがねーんで、似てるかどうかはわからんが、曳船よりコーレンの方が愛嬌があってイイだろう。オレもコーレンって呼ぶよ。
「申し訳ありません。新しいのをと思ったのですが、生産を中断してるので7台しか新しいものを用意できませんでした」
それでも新しいものをと、がんばって集めてくれたのだろう。傷が目立つのは三台しかなかった。
「ワリーな、無理言ってよ」
「いえ、新しいものをお渡しできず申し訳ありません」
「なに、宣伝用だしな、古くても構わねーさ。今後、新しいものを造ればイイんだしよ」
まずは大半を
まあ、帝国に飛空船は少ないが、海船はどの国以上にあり、この大陸では一番の大きさを誇る港を持っている。あそこでなら曳船は引く手あまたになるだろう。
グフフ。皮算用でも大儲けになるわ。
「あ、あの、ベー様。曳船の製造なのですが、少し問題がありまして……」
問題? なんだい?
「実は、材料が不足していまして曳船の生産は三年前から停止しているのです」
なんで? と問うのも愚かか。離反するためにいろいろ準備しなくちゃならない。後回しにできるものはたくさんあっただろうよ。
「なにが、いや、いろいろあるか。なら、欲しいものを書き出してくれ。金属系なら幾らか持ってるし、友達が金属を取り扱っているからすぐには用意ができると思う。木材もいろいろあるからすぐには出せる。曳船を造るのになにが必要だい?」
「主にクロム鉄にイリウムが必要で、あとは銅に緩衝材に使われガウルの皮。アリセルーフの樹液。木材ですね。他にもありますが、それは入手可能なので大丈夫です」
うん。木材しかわかりません。クロム鉄? イリウム? 聞いたこともねーよ。
ま、まあ、小人族の技術は二、三百年余裕で先にいっちゃってるからな、わからなくてもしょうがねーか。
「ワリー。まったくわからん。見本を見せてくれるか。あるならなんとかできるんでよ」
あるんなら出せるし、ないのなら伸縮能力で大きくできる。見せてもらった方が早い。
「でしたら、材料庫にご足労願いますか。物が物ですから」
「そうだな。その方がイイか。ここにあるのかい?」
「全てではありませんが、曳船の材料でしたらあります」
なら、まずは曳船の材料だけでも見ておくか。他はそのうちやればイイ。
と言うことで、材料がある場所へと連れててもらう。って、ヴィアンサプレシア号の反対側にあんのかい。行き来が……って、そのための曳船でしたね。すんません。
操作は方向ステックと上下ダイヤル、パワー切り替えレバーがあるだけのシンプルしたものだが、やってみると意外と難しい。
浮遊石の調整で船体が軽くなり、ちょっとのステックの傾きを間違えると急加速してしまう。パワー切り替えを小にしていてもだ。
「ムズいな」
「ベーが下手なだけじゃないの貸してごらんなさいよ」
小さくならないプリッつあんがオレを押し退け、ステックを握った。
ケッ。メルヘンにやれるかよ。とバカにしていたらあら不思議。曳船歴三十年ばりに操縦しちゃいました。
「ふふん。簡単ね」
おみそれしゃしたっ!
なにも言えずプリッつあんが飽きるまで付き合い、材料庫に到着するのに一時間もかかってしまった。
「結構楽しかったわ。ベーもやってみれば」
お前が奪ったんだろうが! と言いたいのを我慢して、律儀に待っていた大佐にごめんなさい。うちのメルヘンがご迷惑かけました。
「いえ、あまりの上手さに見とれてしまいました」
あんまりメルヘンをおだてないでください。付けあがりますんで。
「ふふ。だって。教えてあげるわよ、ベー」
前略、なにかに転生したかもわからない父上さま。メルヘンがとてもウザいです。どたいしたらイイでしょうか?
――諦めろ。
なんかとってもイイ顔をした父上さまが浮かんだが、気のせいで流させていただきます。
「また今度な」
クソ! 結界ならオレだって自由自在に動かせんだからな!
曳船もう乗らん! と決めたかどうだかはわからない決意をして、大佐に案内を促した。
材料庫は、まあ、材料庫だった。
これと言った特徴はなく、棚がズラリと並び、そこに木箱が収まっていた。
……フレコンパックのようなもんはねーのか。カイナーズホームで買って来るか……。
「すまない。クロム鉄を出してくれ」
大佐のお願いに倉庫担当のおっちゃんが応え、フォークリフト的な曳船で木箱を取り出してくれた。
違う作業員が蓋を開けてくれ、中を覗く。
「……インゴットか……」
前世でのようにチップじゃねーのか。これはメンドクセーな。
「いや、そうでもないか」
クロム鉄なるインゴットを一個つかみ取り、いろいろ弄ってから持てるサイズにまでデカくする。
「大佐。空き箱を持ってきてくれ」
「わかりました」
大佐が倉庫担当のおっちゃんに指示し、空き箱を持って来てくれた。あ、蓋を開けてね。
結界でクロム鉄のインゴット(巨大化)を空き箱の上に浮かせ、土魔法で分解した。
「……ベー様、これは……?」
「まあ、力は使い様ってことだ」
オレの能力、マジ便利。あ、プリッつあんの能力もね。
「これで金属類はなんとかなるな。大佐。空き箱と次の金属を持ってきてくれ」
ウハハハ! さあ、オレの時間だ。どんどん持ってきたまえ!
「……ベーがなんかウザい……」
それはお前だわ!
「ほんと、あんちゃんとプリッシュってイイコンビだよね」
と、第三者からの突っ込みが入った。って、いたね、マイシスター。ヴィアンサプレシア号を降りてから今のこのときまで。
ハイ、突っ込みは甘んじて受けよう。カモーン。
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