第618話 ヴィアンサプレシア号、発進
「ベー様。出発の時間です。起きてください」
――ふがっ!?
いつの間にか寝てたのか、ミタさんに起こされた。
「あ、うん。ワリー。寝てたわ」
「お疲れならもう少し寝ますか? 出発の時間を遅らせるように言ってきますが」
「いや、イイ。大丈夫だ。起きるよ」
本気の眠りだったようで体がダルいが、寝起きはそんなに悪くねー。ちょっと体を動かせばちゃんと目覚めるさ。
体を動かし、まだカップに残っていたコーヒーを飲んで気持ちも目覚めさせた。おし!
「あと何分だい?」
「十五分ほどです」
腕時計を見れば三時四十五分。イイ時間か。
「ん? プリッつあんがいねーな?」
存在をたまに忘れがちだが、頭に乗っていればいるなとは自覚しているんですよ。ほんとだよ。
「プリッシュ様でしたらあそこに」
ミタさんの指さす方向に……なんだろう。ちょっと信じがたいもんがあるんだが……ん? はぁ? なに?
目をゴシゴシ。コーヒーを一杯。気持ちを落ち着かせてもう一度見る。
「ヘビにカバにプリッつあんに羊?」
湖畔で戯れるルンタとカバ子とプリッつあんと……あと、なによ? モコモコした牛くらいの金色の羊が……って、モコモコガールかっ!?
なんか最近見ねーなとは思ってたが、クレインの町に来てたんかい。ってか、なにやってんのよ、いったい?
「こちらの大陸には不思議な生き物がたくさんいるんですね」
いや、あんな不思議なの、アレだけだから。オレからしたら魔大陸に住む君たちの方が不思議生物だから。
「まあ、謎のニューブレーメンは無視するとして、親父殿とオカンは?」
「先程のご様子だと、そろそろ展望甲板に移ってるかと」
まあ、サプルが仕切ってんだから抜かりはないか。なら、オレらも行くとしますか。
ヴィアンサプレシア号の展望甲板は、船尾にあり、親父殿とオカンのスイートルームに続いており、他の者が近づけないようになっている。
なので、そこにいくには親父殿の部屋までいかなくちゃならんのだ。
扉の前にはメイドさんが二人いた。
一応、二人のために用意したコンシェルジュ的な存在だ。もちろん、護衛も兼ねてるので、武装もしている。
オレの存在に気がつき、一礼した後、扉を開けてくれた。
「ほ~ん。随分立派になったな」
外されたのでスイートルームを手がけることはできなかったが、外れて正解だな。オレにはこんなシャレた部屋造れねーよ。
スイートルームにもメイドさんはいたが、ご苦労さんと声をかけるだけにして、展望甲板へと向かった。
「ワリー。待たせたな」
展望甲板には、親父殿、オカン、サプルにメイド長さんがいた。
「あんちゃん、疲れてるなら出発を遅らせるよ?」
愛すべきマイシスター。兄の様子をよく見ている。ちょっと泣いてイイですか……。
「……ありがとよ。でも、大丈夫だよ。今日は早く寝るからよ」
今夜は涙で枕を濡らしそうだよ……。
「ベー。こんな豪華な部屋をおれたちが使っていいのか? 王が泊まっても不思議じゃないだろう、ここは」
まあ、あの部屋の豪華さはこの世界の豪華さの定義から逸脱している。前世を知っているオレでもあれにはビビるわ。
「イイんだよ。親父殿とオカンのために用意したんだからよ。気にせず使え。酒をぶちまけても汚れないようにしてあるし、剣を振り回しても傷つかないようにしてある。心置きなく使ってくれ」
「そうだよ、お父さん。おかあちゃん。例え汚れてもあたしたちがキレイにするから」
ちょっと際どいよサプルちゃん。とは言えないので笑って流します。
「ベー様。時間です」
と、メイド長さんが出発時間を告げた。
「あいよ。なら――」
「――あ、あんちゃん待って。アリザ呼ぶから」
と、手すりに体を預け、大声でモコモコガールを呼んだ。あ、プリッつあんもいたね。忘れてたわ。
声が届いたのか、金色の羊がこちらへと駆けて来る。
「あれ、なに?」
「アリザ、食べ過ぎちゃって羊から戻らないの」
ゴメン。マイシスターよ。モコモコガールの生態、オレには高度過ぎてついてけません。
「つーか、あのままなのか? さすがに船には乗せらんねーだろう」
ヴィアンサプレシア号の通路、そんなに広くねーぞ。
「あ、そうか。あんちゃん、どうしよう?」
どうするって、どうすんだよ?
「ベー様。ベー様かプリッシュ様の力で小さくなさってはどうですか? カイナ様から大きくしたり小さくしたりできる能力があると聞いてますが」
あ、そんな手があったな。ミタさんナイス!
「プリッつあん、モコモコガールを小さくしろ!」
モコモコガールの頭に乗るメルヘンに向かって叫んだ。
メルヘンがパ〇ルダーオンしてねーと、伸縮能力の効果範囲が狭くなるんだよ。最近知ったんだが。
モコモコガールがジャンプ。その瞬間にプリッつあんが猫くらいに縮小化させ、サプルがキャッチした。
「あはは。アリザ、カワイイ~!」
ヌイグルミのようになったモコモコガール羊バージョンを抱き締めるサプル。そーゆーのにもっと興味を持って欲しいよ。
「じゃあ、出発するぜ」
スマッグを取り出し、船長へと繋ぐ。
「船長、出発だ」
返事の代わりか、銅鑼が鳴った。あったんかい、そんなの!?
「親父殿、オカン。ヴィアンサプレシア号の発進だ。よく見ておけよ」
ちょっと演出を凝らしてある。見て驚け。
メイド長さんに目で合図すると、頷き一つして、指を鳴らした。
と、花火が打ち上げられ、紙吹雪を降らした。
「ヴィアンサプレシア号、発進!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます