第605話 嵐が去るまでは

 ヴィベルファクフィニーくん十一歳が正座をさせられてます。


 尊い犠牲により隠居さんから逃れることはできましたが、逃げた先が悪かったようで、問答無用で正座させられました。なぜだ?


 まあ、正座と言うか、罪人座りと言いますか、久々に和の心を思い出す光景です。


 諸行無常の鐘がなる。あれ? 響きだっけ? まあ、なんでもイイわ。ただ今、スルー拳四倍でサリバリやトアラの説教を右から左にサラっとスルっと聞いちゃいねー。


 プリッつあんが一升瓶で殴ってくるのはウザいが、やられてるのはオレじゃねー。そちらを見なけりゃイイだけのことよ。


 え、なにが起きてんの? とか思ってる方々に説明しよう。


 転移バッチで花月館に来ました。


 お邪魔しますとドアに手をかけた瞬間、おぞ気が走った。


 生まれて感じる恐怖に、逃げ出そうと体が動いたが、逃げるのは下策。更にまずいことになると、考えるな、感じろピューターが言っている。ならば、分身の術、発動!


「ちわ~。服できてる~?」


 そう挨拶して作業場的なところに入ると、鬼と化したサリバリと幽霊のようにやつれたトアラ、そして酒乱童子なプリッつあんに囲まれ、小突かれ、部屋の中央で正座させられた。


 おっかね~と思いながら、近くのテーブルに着いて〇ンダムタイム。あーコーヒーうめ~。


 しばらくして説教に飽きたのか、それとも疲れたのかわからんが、三人がこちらへと来てテーブルに着いた。


 お疲れさま。白茶でもどうぞ。


 三人の前に白茶とシュークリームを出してやった。


「まったく、あんなに仕事を押しつけて、危うく死ぬところだったわよ!」


 生きてんだからイイじゃん。それに、修羅場は若いうちに経験しておく方が後々楽になるもんだぜ。


「あたし、体重が減りすぎて体に力が入らないよ……」


 トアラは元々ぽっちゃり体型だしな、痩せ過ぎか。でも、それを他の女の前では言うなよ。妬まれるぜ。


「あのあんぽんたんおバカは、一回死ねばいいのよ」


 すまん。もう一回死んでます。死んでこうなっちゃったんだから、さらに死んだらスゴいことになりまっせ。つーか、腐れメルヘン。あとで覚えてやがれ。


 女のおしゃべりには無関心を貫くのが超吉と学んでるので、BGM変わりにコーヒーを堪能する。


 と、ドアが開き、見た目はヨレヨルだが、目だけは爛々と輝かすコーリンが入って来た。


「……えーと、なにが起こっているのかしら……?」


 目の前に広がる謎状況に戸惑うコーリン。まあ、無理もねーわな。


「あ、あの、ベー様?」


「イイんですよ、ほっとけば。罰です、罰」


「そうですよ、コーリンさま。そのくらいのことしてるんですから」


「むしろ、軽いくらいよ。石でも乗せて置けばいいのよ」


 女性陣がハンパないくらい厳しいです。あと、なんで前世の拷問方法知ってんの、メルヘンさんよ?


「あなたたち、大概にしなさい。ベー様が仕事を持って来てくれたお陰で私たちは服を作れるのですよ」


「そうよ。ベーが後ろ楯になってくれるからこそ、女だけでも安全に商売ができるんだからね」


 と、会長さんの娘……なんってったっけ? まあ、なぜ会長さんの娘がいるのかと言うと、ゼルフィング商会王都支部の代表になってもらったのです。


 本当なら転職組から出す予定で、会長さんの娘には婦人の秘書をやってもらいたかったのだが、婦人が自前で秘書を連れて来たからここを任せたのだ。


 コネとか伝とか必要だし、女の中に男を入れるのも可哀想だ。なら、花月館は女で占めようってことにしたんだよ。


「すみません……」


「申し訳ありません……」


「二人ともベーに甘いわよ! あれはもうちょっと、いえ、大いに躾ないと痛い目に合うんだから!」


 なるほど。なら、メルヘンさんのご期待に応えてやらんとな。どうしてくれましょうかね。


「ハイハイ。プリッシュは好きにしなさい。ベーの保護者なんだしね」


 いやいや、保護者はこっちだわ! なんでプリッつあんがそんな感じで扱われてんの!?


「それにしでも、また食べてるの? 美味しいのはわかるけど、食べ過ぎはダメよ。と言うか、わたしたちを差し置いて自分だけだけ食べるなんていい度胸ね?」


 会長さんの娘――あ、ザニーノだ! って、思い出したところで、自慢にはならんか。と言うか、黙っておいた方がイイか。下手に言ったら更に酷い目に合いそうだし……。


「え、いや、これは、ここにあったからつい……」


「そ、そうなんです! あったからつい手が出ちゃって!」


「と言うか、ベーが持って来たお菓子って、全部食べたよね?」


 あれ食ったんかい!? まだ一日も過ぎてねーじゃんかよ!


 シュークリームにエクレア、あとオシャレなお菓子を数日分って頼んだのに、なにもう食っちゃってんの、女子諸君は!?


「どう言うこと?」


 驚いている間に女子諸君の間には怪奇現象を見たような空気が流れていた。


「いや、ベーね! これはベーの仕業だわ!」


 と、メルヘン探偵が叫んだ。ハイ、せーかぁーい!


「ベーが?」


「でも、ベーならそこに……」


「いえ、これは偽物よ! おかしいと思ったのよ。なに一つ反論しないし、無抵抗だったから」


 いや、君たちに囲まれたらなにも言えないし、抵抗なんてできないからね。


「ベー、どこにいるの!」


 君の目の前だよ。


「出て来なさい! 出て来ないと酷いわよ!」


 それは逃げるドロボーに逃げるなって言っているようなもの。出る訳ないしょっ。


 まっ、嵐が去るまではゆっくり待つのが賢明ってもの。あーコーヒーうめ~。

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