第520話 ライバル
「さっぱりしてきたな」
「…………」
プイとソッポを向く勇者ちゃん。
プリッつあんのこーでねー……コーディネートでオシャレになったのに、なぜかプンプン怒っていた。
「どうしたい?」
聞くがさらにソッポ向いてしまった。嫌われちゃったかな?
「まあ、なんでもイイわ。勇者ちゃん。聞きたくねーのなら聞かなくても構わねーが、一応説明しとくな。今日から勇者ちゃんはうちの子になった。なんで、住むのもこのうちだ。あと、女騎士さんもな」
女騎士に目を向けると、よろしくでありますと敬礼した。この人は相変わらずブレない人だ。
「えー」
と、勇者ちゃんではなくトータが不満をもらした。
お。珍しいな。トータがここまで悪感情を出すなんて。いったいどんなドラマがあったんだ?
「ボクの方がえーだもん!」
ソッポを向いていた勇者ちゃんが反応する。
「なんなのいったい?」
「わたしが知るわけないでしょう」
「そりゃごもっとも。で、なんなわけ?」
プリッつあんが使えねーのはいつものことなので、事情を知るチャコに尋ねる。
「まあ、目と目が合ったその日からライバルになることもある、ってことよ」
「なるほど。ライバルね……」
この二人がどこで遭遇したかは知らんし、どんな感情が走ったかもわからんが、同じ年の天才同士。なんか通じる(?)もんがあったんだろうよ。
「……ベーと会話が成り立ってる……」
なんか驚愕している使えねーメルヘンは無視。使えるメルヘンに意識を戻した。
「チャコから見てトータはどうよ?」
「誇り高きゲーマーね」
「勇者ちゃんは?」
「誇りなきゲーマーね」
「なるほど。正反対ってわけね」
「そーゆーこと」
そりゃ確かに目と目が合ったその日からライバルになることもあるわな。水と油だわ、この二人。
「……ベーと会話しているですって……」
目の前で驚愕するメルヘンをわしっとつかみ、ドレミの背に乗せた。
「ぶっほ! ベーのセンスサイコー!」
チャコのセンスもよろしいようで、腹を抱えて笑っていた。
「……なに、このアホどもは……」
チャコの相棒だろう誰かさんが冷たい目をむけてくるが、そんなものに負けていたらアホはやってられない。光栄と思えてこその一流だ。
なんのだよ! との突っ込みは絶賛大募集。言われてこその……なんかだ。よー知らん。
「まあ、理解した」
「なにを?」
そんな突っ込みノーサンキューだよ、プリッつあん。
睨み合う二人に苦笑しながら収納鞄から物語を刻んだ木版を取り出し、トータの前に置く。
「ほれ。トータが欲しがってた忍者物語だ」
某忍者少年の物語を軽く書いたものだが、トータには賢者の書にも匹敵するもの。勇者ちゃんなどガン無視で木版をつかんだ。
「あんちゃん、ありがとう!」
満面の笑みを浮かべるマイブラザー。ほんと、忍者好きだな、こいつは。
「なに、それ?」
興味を持った勇者ちゃんが尋ねてきた。
「物語だよ。勇者ちゃんにもやろう」
桃太郎を刻んだ木版を出して勇者ちゃんに渡した。
「???」
木版を逆さまにしたり横にしたらして疑問符の花を咲かせていた。
……やっぱりか……。
「もしかして、字、読めない?」
トータもそれに気づいたようで、小バカにするような目を勇者ちゃんに向けた。
「――字くらい読めるもん!」
勇者ちゃんの後ろでヤレヤレと肩を竦める女騎士さん。この人、案外容赦ねー?
「ダサー。勇者、ダサー」
「ムキー!」
ちょっとマイブラザーが心配になってきたが、まあ、これを望んだんだからスルーしておこう。
「勇者ちゃん。世の中、バカでイイのは七才までだ。そして、知恵のない強者は知恵のある弱者に負ける。このままでは勇者ちゃんはトータに負ける。それもかん……はわからんか。百回やっても百回負けるだろう」
「負けないもん!」
「いや、負けるよ。チャコが負けさせないからな」
似たようなオレたちだが、トータを育てるのはチャコの方が適任だ。オレ以上にトータのよさを伸ばしてくれる。
「だから、勇者ちゃん。オレがトータに負けないように強くしてやる。だから勇者ちゃんが選びな。一人で強くなるか、オレと一緒に強くなるかをな」
どうだい? と勇者ちゃんをまっすぐ見る。
「なる! 村人さんと一緒に強くなる!」
うん。よくできました。
「フフ。ライバルができちゃったわね」
「だな」
不敵に笑うチャコに不敵な笑みで返してやる。
「……どっちもアホね……」
「まったくだわ」
違うところでも友情が芽生えたようだが、そんなもんどうぞご勝手に、だ。
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