第494話 ベーの紋章
モヤモヤした気持ちを抑えながら孤児院へと到着した。
来ることは昨日伝えてあるからか、チビっ子どもが門の前で待ち構えていた。
「タケル。チビっ子どもはオレが引き受けるから馬車を広場に頼むな」
「わかりました」
御者席の横から飛び下り、チビっ子どものもとへと向かった。
ベー様ベー様と群がるチビっ子どもをあしらいながら孤児院の中へと入り、馬車から遠ざけた。
「いらっしゃいませ、ベー様」
「なにも出迎えなんてしなくてもイイんだぜ。オレはそんな大層な身分じゃねーんだからよ」
来てから顔を見せてくれれば充分。それで満足だぜ。
「せめてもの感謝です。ベー様は、なにも受け取ってくれませんから」
そんなことはない。孤児院のチビっ子からたくさんの感謝をもらってるし、思わず涙が出てしまいそうな贈り物をもらったこともある。
「ちゃんと受け取ったぜ。チビっ子どもからの感謝をよ」
オレの紋章マークたるコーヒーカップは、この孤児院のチビっ子どもが考えてくれ、オレに贈ってくれた。
あれには結構嬉しかったもんだぜ。まさしくオレを体現したようなものはねーからな。
「あの紋章は、金貨千枚にも勝る高価がある。オレの宝物ものだぜ」
孤児院の広場に立つ、ポールへと目を向けた。
そこには、オレの紋章マーク旗が靡いていた(結界の力で)。
公爵どのに依頼して最高のもので作ってもらい、主要な友達に送ってある。ここにはオレの大切なものがあるぞと主張するために。
まあ、誰に向けてるかはオレにもわからんが、まあ、たんにオレの自己主張。自己満足でやってるだけだ。
「ああやって掲げてくれる。それだけで嬉しいもんさ」
もちろん、院長さんやチビっ子どもの気持ちも嬉しいぜ。
「だから、出迎えなんてすっことねーよ。そんで、荷物の運び出しは終わってるかい?」
院長さんの慈愛に満ちた笑みに照れ臭くなり、無理矢理話題を変えた。
「はい。だいたいのものは運び出しております。あとは、個人の私物とベッドくらいです」
まあ、孤児院のベッドは、三段ベッドであり、オレが孤児院の中で作ったもの。外に出すようにはしてねーから出せるわけねーか。
「ベッドはそのままでイイよ。ベッドも新しくなるからよ」
匠に死角なし。ベッドどころか机やタンス、本棚にハンガーまで、作る熱の入れようだ。
まさに劇的なビフォーアフター。二時間特番で紹介してーくらいだぜい。
「んじゃ、私物を出すようには言ってくれや。こちらも用意すっからよ」
「はい。畏まりました」
院長さんの一礼に、苦笑で返し、馬車へと向かった。
「プリッつあん。コーリンたちを呼んできてくれ。いろいろ手伝ってもらいてーからよ」
「わかったわ」
我が儘メルヘン姫ではあるが、これで結構空気が読める。ほんと、メルヘンは謎である。
「タケルと猫耳ねーちゃんはチビっ子どもの相手な……って、もうまとわりかれてるか。まあ、しばらくは孤児院の方に近付けさせるな」
昨日の幼女と猫耳ねーちゃんが猫のケンカのように威嚇し合い、オロオロするタケルに任せ、また院長さんのところへと戻った。
「院長さん。聞き忘れたが、まだ領主夫人は来てねーよな?」
「はい、まだ来ておりません」
まあ、さすがに午前中に来るのは無理か。
「来たら相手しててくれ。あと、昼は広場でバーベキューにするから、スラムのガキどもも集めててくれ。なんならご近所さんもイイぞ。新孤児院を披露だ、人数が多い方が披露しがいがあるってもんだ」
これも孤児院の周知と後ろ楯がいるってことを示す意味もある。人数は多ければ多いほど認知されるってもんだぜ。
「はい。では、集めておきます」
そっちは院長さんに任せ、横にいる猫型ドレミを見る。
「ドレミは、料理とかできるか?」
「はい。サプル様より伝授していただきました」
いつの間に!? とか思うだけ無駄。超力生命体に不可能はねーんだよ。多分だけど。
「なら、メイド型ドレミにバーベキューの用意をするように言ってくれ。プリトラスに材料はあるだろう?」
プリトラスの事情はよー知らんが、カイナが関わっている以上、隙はねーだろう。ましてや、サプルに料理を伝授されてることからして食材は結構な量を持ってきてるはずだ。
「はい。充分な量をサプル様からいただいております」
やっぱりな。サプルにも死角はねーんだよ。
「じゃあ、そーゆー方向で頼む。大変なときはトアラに手伝ってもらえ。サプルと仲がイイだけあって料理は上手いからな」
「わかりました。そう指示を出します」
そっちはメイド型ドレミに任せ、オレらは旧になる孤児院の中へと最終確認をしに入った。
誰かいてそのまま小さくしましたじゃシャレにならんからな。
まったく、結界術のように自由自在に操れる能力なら、入らなくても判別できるのによ。
「伸縮能力、もっと試行錯誤せんとな」
今後の課題を胸に、旧になる孤児院を見て回った。
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