第477話 プリトラス
朝食も終わり――と言うか、タケルの腹が静まったので部屋へ戻ることにした。
「出発、どうします?」
部屋へ戻る途中、タケルがそう聞いてきた。
「まあ、部屋に戻ってどうなってるか次第だな」
「あー確かに。なら、確認したらそっちにいきますね」
「いや、馬屋に集合しよう。起こすのも気の毒だしな」
それも理由の一つだが、フェリエも男に寝顔(今にもゲロ吐きそうな状態です)を見られたくねーだろう。その逆、猫耳ねーちゃんも嫌だろうし。
「はあ。わかりました。じゃ、馬屋で」
部屋の前でわかれ、オレも部屋へと入った。
「ん、起きてたか」
ベッドの上で上半身だけ起こしていた。
「…………」
起きたはしたが、まだしゃべれる状態ではないようだ。
先程の冷水をコップに注ぎ、フェリエに渡そうとしたが、もはや受け取るのもしんどそうなんで飲ましてやった。
「酷いならまだ寝てろ。今日も宿泊にしておくからよ」
「……うん……」
フェリエを寝かし、結界で包み込む。万が一の保険だ。
「んじゃ、今日は無理せずゆっくり寝てろよ。オレとタケルで孤児院にいってくるが、今日明日に出発することはねー。たぶんだが、何日か滞在すると思う。あと、隣に猫耳ねーちゃんがいるから落ち着いたら見にいってくれや」
「……うん……」
親に置いていかれそうな幼子のような顔を見せる大きな幼なじみの頭をよしよしと撫でてやる。
瞼を閉じ、眠りにつくまで側にいてやり、寝息が聞こえたら部屋を出た。
そのまま馬屋には向かわず、女将さんを見つけ、延長が可能かを尋ねた。
「はい。大丈夫ですよ。あの部屋は高級なので滅多に泊まりませんから」
それは宿としてどうなん? とか思ったが、口にせず、馬屋へと向かった。
馬屋まで来ると、フブキとライゼンが出ていた。
早く来たタケルが出したんだろう。でも、なぜフブキだけ?
「あ」
そこで唐突に思い出した。オレの頭の住人がいねーことに。ハイ、今更ですがなにか?
「あ、ベーさん。プリッシュが残ると言うから荷台は残しました」
「プリッつあんが?」
って、そー言や、ここしばらくプリッつあん見てねーな。いやまあ、忘れていたオレのセリフじゃございませんがねっ。
「なにか徹夜明けみたいな顔してましたね?」
徹夜明け? プリッつあん、よく寝る子だぞ。
気になって馬屋に入ると、荷台にはメルヘン機はおらず、プリッスルだけが載っていた。
「メルヘン機は?」
「メルヘン機って、ストラトス6隊ならバリアルの街をスキャナーしてますよ。まあ、地図作りですね」
なんだよ、ストラトス6って? なんかよくわからんが、いろいろなものに謝れ! いや、なに言ってるかオレにもわからんがよ!
ま、まあ、イイ。タケルの領分だ。好きに名付けろ、だ。だが、地図作りとかなんでだ?
「GPSがない世界で地図は必須。地形情報がないと怖くて飛べませんよ。ただでさえ磁気とか変なノイズで飛び辛いんですから」
なんかよーわからんが、ファンタジーな世界の空はSFには辛いようだ。
「それで思い出した。これ、喪服の人に造ってもらってくださいよ」
と、なにか野球のボールくらいのメカっぽいものを出した。なにこれ?
「ビーコンです。これをたくさんばら撒いてGPSの変わりにするんですよ」
ビーコンな。まあ、よー知らんが、なんとなくは理解できた。
「わかった。会ったら頼んでおくよ」
あまり、いや、行かなくてイイのなら喜んでいかねーが、そう言うわけにもいかねー。まったく、難儀なこった。
ポケットに仕舞い、プリッスルを覗いた。
見た目は広場にあった鬼巌城に……いや、そんな、でも、いやいや、そんなことあるわけ……あるのがカイナだな……。
鬼巌城に似てるとか、全然気が付かねーオレもオレだが、もはや、プリッスルはアレだろう。『魔改造しちゃった☆』とかなんとかイラっとくることを言ってたしな……。
あのバカはなにを目指してるのか知らんが、ほんと、好き勝手に生きてる野郎だぜ。
「タケル。ワリーが、ちょっとプリッつあんの様子を見てくるから待っててくれや」
「はい、わかりました」
言って、プリッスルの玄関の前に立てるように自分の体を小さくする。
「…………」
鬼巌城似の玄関前、いや、玄関の横にプレートがはめ込まれているのに気が付いた。
「丙型変形要塞、第六世代型魔鋼城、プリトラス」
ハイ、誰か説明ぷりーずデス。
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