第471話 権力万歳

 バカが出た。


 いや、この世にバカがいることは知ってるし、何度か絡まれたこともある。


 記憶に新しいところでは王都でマフィアに絡まれた件だろう。だが、今回は人生初? まさか貴族に絡まれる日がこようとは夢にも思わんかったぜ。


 目の前にいるバカは、二十半ばで目も態度も腐った、まあ、見るからに駄肉そのもの。よくこんなのが存在しえたと感心するくらいだ。


 貴族が尊いなんて幻想、オレは持ってねーし、クズに身分は関係ねー。ある意味、好き勝手生きてるその生き様に尊敬すら感じるよ。


「ワリー。なんかよく聞き取れなかったんで、もう一度言ってくれるか?」


 駄肉がなにか言った瞬間、思わず思考の海に飛び込んじまって、なにを言ったか忘れっちまったよ。


「ガキ、ハリオラ様にその口調、斬られたいのか!」


 手下その一がなぜか切れる。いや、どこに切れる要素があったよ?


「落ち着け。愚民に高尚な言葉は通じん。それを理解しないこちらの不手際よ」


 こちらを小馬鹿にした口調と態度。なんかもう、見てるこちらが恥ずかしくなるわ。


「……ベー、どうするの?」


 オレの横にいるフェリエが呆れ口調で囁いてきた。


 ……それはこっちが聞きてーくらいだわ……。


 宿を出て屋台広場に来るまでは、なんの問題もなく、ついてからもこれと言ったイベントは発生しなかった。


 王都と同様、なぜか屋台の食い物は旨く、タケルは片っ端らから屋台を閉店に追い込んで行っていた。


 少食なオレとフェリエは、広場に設置されたテーブルにつき、猫耳ねーちゃんが買ってくるものを適当につまみながら雑談してると、駄肉とその手下×五人が現れたのだ。


「金髪とは珍しいな」


 いきなり来てそんなことを言ったのは覚えてる。


 そのあとはよく覚えてないが、まあ、フェリエに絡んできたことと、駄肉の好色そうな態度からして、ナンパをしにきたんだろう。たぶん?


「女。お前を召し抱えてやろう。来るがよい」


 思わず正気か? と問おうとして止めた。クズにはクズの理があり、これがクズにとっての正気なのだから。


「見たところ、貴族、それも領主家系の者と見るが、いかがか?」


 一切の自重を捨て、城からそのまま来ましたと言う身なりは、誰が見ても領主の一族だろう。


 周りに目を向ければオレの読みを肯定してくれるように、駄肉を軽蔑したようにこちらを見ていた。


「それがどうした?」


 清々しいほどにバカっぷりに、まだ見ぬ領主に同情する。こんなバカを育てるバカが一族の中にいるのだからな。


「見なかったことにしてやる。去るがよい」


 まあ、無駄とは思うが、手順はちゃんと踏んでおかんと、こちらの立場が悪くなるからな。


「下郎! ハリオラ様になんて口を聞く!」


「無礼な!」


 誰一人、この状況を訝る者なし、か。いや、いるな。オレの結界を纏う者が。


 半径三十メートル以内に、魔物使いに纏わせた結界から分裂した結界を纏わせる者がこの状況を見ている。


「なるほど。そーゆーことか。なんともご苦労なこった」


「なにをブツブツ言っておる! 下郎が我が一族に逆らうか!」


 自分の領地でなにしようが勝手だし、それが貴族の腐れた特権だ。オレに否はねー。だが、自分の領地だろうが、その特権は絶対じゃねー。それ以上の権力があれば簡単に覆させるんだよ。


「よかろう。そちらがこれ以上の無礼を働くと言うならば、大老の命により力で排除しようではないか」


 席から立ち上がり、駄肉と対峙する。


「故あって名乗ることはできぬが、我らは大老の命によりこの地に参った。このことは領主夫人にも伝えてあるし、もう領主殿の耳にも届いているだろう。客として呼ばれた訳ではないが、大老の名と命によって我らは存在していられる。これに逆らうと言うことは大老に剣を向けるのも同義。たかだか領主の一族がつけあがるな!」


 ポケットから豪奢な剣を出し、駄肉に剣先を向けた。


「……わ、わたしは、領主の一族だぞ……」


 現実に目を向けることもできねー駄肉。ここまで酷いと、哀れでしかねーな。


「まだ言うか! ならばよい。その言葉を大老への宣戦布告と取らせてもらう。フェリエ、やれ!」


「仰せのままに!」


 悪乗りしたフェリエが前へと出て、炎の矢を六つ、創り出した。


「あの世で後悔するがよい!」


 もうほんと、ノリノリだね、フェリエさん。


 放たれる炎の矢が駄肉らに襲いかかった。


「ギャアアアッ!」


「ウワワァッ!」


「グァアアァッ!」


 なにやら豪勢に叫ぶ駄肉ども。つーか、それハッタリ用の魔術で当たっても熱くもなんともないんだがな。


 幻の炎にのたうち回る駄肉を見下ろし、この状況を見る者を引き寄せた。


 現れたのは犬耳のねーちゃんだった。しかも、目がヤバかった。


 ……前に見た、邪教団と同じ目をしてやがるぜ……?


 なにがヤバいって種族を超えた集団が一番ヤバい。宗教国家以上に厄介。あいつらはハンパない憎悪で結束し、邪教とか悪魔崇拝とかやってんだもん。


「まあ、その苦労は領主にお任せだ」


 犬耳ねーちゃんに新たな結界を纏わせて解放する。これで仲間たちに会ってくれっと一網打尽なんだがよ。


「まったく、大老とかよく平気で出せるわね。この詐欺師!」


「詐欺師とは失敬な。ちゃんと大老どのから免罪符はもらってるも~ん」


 まさに権力万歳である。

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