第464話 旅路の夕食

 夕方の五時過ぎくらいに、今日の宿泊地たるガナラの町に着いた。


 バリアルの街と王都にわかれる分岐点の町なので、隊商が宿泊する広場は九割近く埋まっていた。


「相変わらず混んでるわね」


 オレの依頼でバリアルの町にいったことがあるフェリエには、この光景はもやは見慣れたものになっているようだ。今回で三度目のクセによ。


「うぉおっ! まさにファンタジーだ!」


 ファンタジーの住人からしたらお前のSFにびっくりだがな。


「ベー。わたしは冒険者ギルドにいってくるわね」


「あいよ。いってらっしゃい」


 町は乗馬禁止とかで歩いて冒険者ギルドへと向かっていった。


 冒険者はホームから出ると必ず最寄りのギルドへと出向き、来たことを報告する義務があるのだ。


 これは魔物の大暴走とか起こった場合、冒険者は強制参加させられる。これは冒険者の義務であり、ギルドが国を越えて維持できる理由である。その義務を怠ると罰金か除名させられるのだ。


 ……こーゆーのがあるから冒険者とかなりたくねーんだよな……。


「タケル。今日はどうする? 宿場町だから探せばイイ宿があると思うぜ」


 フェリエの話では、貴族や金持ち相手の高級宿があると聞いた。まあ、フェリエは泊まってねーので、どんなサービスかは知らんがな。


「止めておきます。どんないい宿よりベーさんといた方が快適ですし」


 この旅の目的はタケルの修行であり社会勉強が主なので、なにも言わずアラエ村の宿に泊まらした。


 オレ的には平気なのだが、平成生まれのタケルには拷問だったらしく、一睡もできず、一晩中ノミや臭いと戦ったようだ。


 食事も王都以上に口に合わないようで、マジ泣きするくらいだった。


 それからオレたちは宿には泊まらず、広場での野宿をしているのだ。ちなみにフェリエも最初の一回のみ。一緒に野宿――つーか、プリッつあんのニューキャッスルに泊まってるよ。軟弱者が!


「猫耳ねーちゃんはどうする?」


「……タケルが野宿するならあたしも野宿するよ……」


 おーおー、愛の力はスゲーわ。ごちそうさまだぜ。


 空いている場所を探し、そこを今日の宿泊地とした。


 隊商も近くに荷馬車を止め、それぞれ野宿の準備を始めた。


 そこそこの隊商なら魔道具の竈を持ち、鍋物にしたりするのが普通だが、うちの村を通る隊商は、オレが考案した調理車を連れて旅をしている。


 まあ、調理車はオレが考案したが、その製造販売はマー……マーラン? マーブル? なんだっけ、じいさんの名前? マーしか覚えてねーや。


 ま、まあ、じいさんに製造と販売は任せ、その売上の二割は受け取っている。なんともぼろもうけである。


 隊商は料理人を雇い、途中で仕入れた食材で温かいものを作っているが、生憎、うちには料理人はいねーので、簡単なものになってしまう。


 もちろん、収納鞄には食いきれねーほどの料理が入っている。が、言ったようにこれはタケルの修行だ。村での生活を持ち込んでは修行になんねー。なので、料理人はオレ。台所出禁になったオレの料理を食いやがれ、である。


 土魔法で竈を創り、収納鞄からフライパンを出す。


「さて。今日はなににするかな?」


 料理がダメなオレではあるが、料理をするのは嫌いじゃねーし、焼くのは得意である。材料と下ごしらえしてあればちゃんと作れるのだぜい。


 収納鞄を漁り、どれにしようかなと、バロマ焼きに決めた。


 葉物の野菜をといた小麦粉につけ、フライパンで焼くと言った簡単なものだが、うちのサプル様は、小エビや貝、イカなどを入れてお好み焼き風にしてくれた。


「今日はバロマ焼きですか。ふふ」


「……あたし、イカ苦手……」


 タケルと猫耳ねーちゃんは完全に食べる係。どちらもオレ以上に料理がダメなヤツでした。


 ちなみにフェリエはそこそこ上手い。卵料理に至っては下手な料理人よりは旨い。毎日は嫌なので今回の旅では料理はさせん。朝からゆで卵五個とか、昼は山のようなオムレツとか、ノイローゼになるわ! ブタ肉が続くより辛いわ! さすがのオレでも泣いちゃうわ!


「シチューもあるからそっちを食え」


 タケルの胃袋を考えたらバロマ焼きでは間に合わねー。なので旅に出る前にサプルから大量の料理を持たされている。二年くらい無人島にいっても余裕で生きられるぜ。


 他は猫耳ねーちゃんに任せ、オレはバロマ焼きに集中する。


 バロマ焼きは何度も作っているので失敗はねー。おら、いっちょ上がり!


「ベーさん、旨いです!」


 焼いた側からタケルの胃袋に収まってしまった。


 まあ、こうなることはわかってたし、まだ小手調べ。まだまだ余裕よ! とか思ってたが、さすがに四十枚も作ると飽きた。


 なんで、ホットケーキにチェンジ。したら、今度は猫耳ねーちゃんが食らいついてきた。


「ホットケーキ美味しぃ~!」


「あ、ズルい! ホットケーキやるならわたしがいるときにって言ったじゃないのよ! タケル、食べすぎよ!」


「――あ、おれの!?」


 フェリエが冒険者ギルドから帰ってきたと思ったら、タケルが口にしようとしていたホットケーキを奪い取ってしまった。


「フェリエ、意地汚い!」


「口の回りをハチミツでベタベタしたタムニャに言われたくないわよ!」


 ギャーギャーとうるさい夕食だが、これも旅の醍醐味。楽しめだ。


「ほら、すぐ作るから騒ぐな」


「次はわたしのよ!」


「フェリエ、今食べたじゃない!」


「ベーさん、お代わり!」


「オレはサプルじゃねーんだ、他の食って待ってろ」


 そんな騒がしくも楽しい夕食時が過ぎていった。 

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